2019年11月13日

◆セクシャルハラスメントにおける男性の「言い分」と変化しつつある裁判所(弁護士小林徹也)


■よくセクシャルハラスメントの相談を受けます。
これまでに,上司による職場でのセクハラ発言から,上司からの執拗なデートや交際の誘い,さらには犯罪まがいのものまで,様々な事例を扱いました。
どちらかというと示談で終了することが多いのですが,訴訟に発展する場合もあります。
今回は,そのような事案において,よくある男性側の「言い分」についてお話ししたいと思います。
   
   
■男性の「言い分」-嫌がっているように見えなかった
セクシャルハラスメントにおいてよくある男性の「言い分」として,例えば,性的な言動について,「笑って聞き流していたので嫌がっているように見えなかった。嫌だと言ってくれれば止めた」というものがあります。
しかし,まさにここにセクシャルハラスメントの本質があります。
使用者と労働者,あるいは上司と部下の関係にある場合,使用者や上司からの性的な発言に対し,仮に不快に思っていても,それを明確に意思表示できることは少ないのです。男性側はこの点が実感としてなかなか理解し難いのです。
だからこそ,セクシャルハラスメントという類型を特別に検討する必要があるのだと思います。
社会的にも,このようなセクシャルハラスメントの本質が(不十分ながらも),認識されつつあり,「相手がいやだと思わなかった」,「認識の違いだ」などという「言い訳」は通らなくなってきています。
特に,一定のコンプライアンスが確立している企業では,そのような認識を持ち得ないこと自体企業人として不適格の烙印を押されかねません。
かくいう私も,事件を通じて理解しようと努めていますが,本当に実感できているのか自問自答する毎日です。
   
   
■変化しつつある裁判所の対応
同様に,セクシャルハラスメントに関する裁判所の対応も変わってきたように思います。
10年も前は,女性裁判官がセクハラを受けたと主張する被害者の女性に対し「嫌ならなぜ嫌と言わなかったのですか」などと平気で質問してくるようなこともありました。
しかし,最近では,基本的に,「労働者,特に女性は上司に対し,嫌悪感をはっきりとは表現できないものだ」という認識が,(徐々にですが)理解されてきているような気がします。
すべての裁判官が,とは言いませんが,訴訟となると比較的丁寧に当事者,特に被害者の話を聞いて,示談に向けて加害者を説得することが多いように思います。
   
   
■いずれにしても,セクシャルハラスメントを受けた(あるいは行ったとされて賠償請求を受けている)などのご相談がありましたら遠慮なく御連絡ください。
(特に男性の方には)必ずしも,都合のよい方針は示せないかもしれませんが,法的に適切な方向性は示させていただきます。

2019年4月8日

◆「違法」なパワーハラスメントと「違法」でないパワーハラスメント(弁護士小林徹也)


■よく会社などでのパワーハラスメントのご相談を受けます。精神的に疲弊され来所される場合も多く,私としても可能な限りお力になりたいと思っています。
法律家である弁護士が関与する態様としては,窓口となって,当該パワーハラスメントを行っている上司などと交渉する,あるいは会社に対し改善を求めるなどです。
   

■ただ,「加害者」と交渉を行うとしても,法律の専門家である弁護士としては,最終的に訴訟となった場合にどのような判断が下されるか,という点を見据えなければなりません。
相手方も,話し合いを拒否した場合どのようになるか,弁護士に相談することが多いからです。
   

■この場合,当該パワーハラスメントが訴訟において「違法」と判断されるかどうか,が重要なメルクマールとなります。
ここで,「違法」というのは,もし裁判所によってそのように認定されれば,損害賠償義務が発生し,被害者に対し,(金額はともかく)お金を支払わなければならないということです。
そして,この支払いを拒否すれば,加害者はその財産を強制的に売却されたりするという大変大きな効力を持ちます。
例えば,違法と認定された判決に基づいて,加害者の会社に通知を出して,その給料を被害者に支払わせる,ということまで出来てしまいます。
   

■逆に言えば,ここまで大きな力を被害者に与える以上,裁判所としても,それほど簡単に「違法」とは評価しません。
例えば,「こんな仕事を続けているようでは会社にはいてもらえない」などと言われれば,言われた方は大変ショックを受けるでしょうし,人によっては精神的な疾患を発症する方もおられるかもしれません。
しかし,だからといってこの言動のみをもって,裁判所がパワーハラスメントと評価する可能性は低いのです。
実際に相談者がどのような仕事をしていたのか,他の社員に対してはどのような評価が下されていたのか,他にはどのような言動があったのか,など様々な事情が加わって,違法と評価される余地はありますが,単に仕事の評価が低かった,そのことを言葉で指摘された,というだけでは違法にはなりません。
   

■私がこれまで扱った事件でも,例えば,当該業務とは全く関係がないにもかかわらず,当該社員の以前の職歴を指摘し,「これだから教師上がりは困る」などと叱責したような事例がパワーハラスメントと認定されていますが,業務について少々厳しいことを言われてもそれがパワーハラスメントと評価されることは少ないと思われます。
   

■いずれもしても,当該言動がパワーハラスメントと評価されるかどうかの判断には専門的な知識が必要となります。判断に迷われている場合でもご相談ください。
 

2018年12月12日

◆職場におけるパワーハラスメント(弁護士小林徹也)


■最近,職場におけるパワーハラスメントがよく問題になっています。
暴力を用いたり,直接に人格を否定するような言葉を用いたりした場合に,これをパワハラと認めることは比較的容易ですが,例えば,しつこく小さなミスを指摘する,長時間にわたって説教をする,注意する声が大きい,など文章にするとパワハラと認めることができるか,が微妙なものもあります。
というか,私が相談を受けた事案はそのようなもののほうが多いように思います。
   
  
■このような,陰湿なパワハラは,言われている本人すら,なかなかパワハラだと感じることができず,「自分が悪い」と思いがちです。また,パワハラだと思っても,実際に上司を訴えたりすることに二の足を踏む方のほうが多いと思います。
   
  
■参考になるかは分かりませんが,私は以前,次のような相談を受け対応をしました。
この依頼者の方も,やはり職場で陰湿な嫌がらせを受けていたのですが,ただ,過度の残業をさせる,小さなミスをいつまでも指摘する,といった,訴訟となるとなかなかパワハラであるとの立証が難しいような事案でした。
ただ,依頼者の方は,うつ病を発症されていたことから,なんらかの対応はせざるを得ませんでした。
そこで,私が代理人となって,その会社の社長,及び職場の上司に対し,厚労省のガイドラインなどを用い,うつ病であり過度の残業をさせないこと,また,本人からのいじめの主張についてはきちんと調査をすること,等を要望する文書を出しました。
その結果,私が職場の上長と話し合い,依頼者の職場環境について,一定の配慮をすることを文書で合意することができました。
   
    
■もちろん,多くのパワーハラスメントの事案で,このような方法をとれるとは限りません。この依頼者の方も,とりあえずはある程度環境が改善されその後何年も勤務されていますが,全く問題が生じていないわけではありません。
ただ,一つの選択肢として,訴訟以外にもこのような方法がありうるということは頭の片隅に置いていただければと思います。

2018年7月24日

◆セクシャルハラスメント-勘違いしている男性(弁護士小林徹也)


■最近話題のセクシャルハラスメントですが,様々な場面での相談をお聞きします。
例えば,飲食店での店長による女性従業員に対する性的言動や接触というものがありました。
このような場合の加害者である男性は,必ずしも,「いかにも」という人ばかりではないのです。ずる賢い男性は,相手を選びます(もちろんその判断は間違っているのですが)。
つまり一定の範囲の女性従業員からは,「そんなことをする人には見えない」などと言われていたりするのです。
   

■ところが,「こいつには言ったり触ったりしても文句は言わないだろう」と当たりをつけた女性に対しては,例えば,体型の話や,男性との性交渉の内容などの話題を出してくるのです。
もちろん,従業員である女性は,なんとか働き続けたいと考えているので,できるだけ聞き流そうとします。すると,男性は「嫌がっていない」と勘違いしてエスカレートしていくのです。
このような職場で声を上げることはなかなかできません。私のところに相談に来られた方も,退職してからの場合がほとんどでした。
   

■もちろん,男性側から相談を受けることもあります。
男性は往々にして「この程度ではセクハラには当たらないと思うがどうか」という相談ですが,多くの方は少し勘違いしていることが多いのです。
違法(つまり金銭賠償をするほどのもの)というレベルかどうか,は別としても,当該行為がセクシャルハラスメントと言えるかどうかは,被害者が不快に感じたかどうかなのです。そして,いったん被害者がそのような感情を抱き,それが業務に影響を与えた以上,職場の健全な人間関係を維持するという観点からは,そのような行為は許されないのです。
   

■いずれにしてもそのような被害に遭われましたら,まずはメンタルなサポートが必要ですが,きちんと加害者に理解させることは,立ち直る一つのきっかけになることもあると思います。遠慮なくご相談ください。

2014年4月28日

◆裁判官でも揺れるセクハラの判断(弁護士小林徹也)


■ これまで何件もセクシャル・ハラスメントが問題となる事件を扱ってきました。

 犯罪になりかねない極端な事案は別として,現実には,セクシャル・ハラスメントかどうかの判断は難しいもので,裁判官によっても判断が揺れるように思います。

 

■ 依頼者のプライバシーの問題がありますので詳細は避けますが,かなり以前に,次のような事案を扱ったことがあります。

 社員が20名くらいの小さな出版会社で,入社したばかりの女性社員に対し,社長が,歓迎会と称してバーに誘いました。

 1対1で社長と出かけるのは気が進みませんでしたが,希望に溢れて入社したその女性は,社長の誘いを断ることができませんでした。

 バーでは,酔ってきた社長が肩に手を回してきたり,「彼氏はいるの?」などと聞いてくるようになりました。他方で,そのような話や態度の合間に仕事の話しもすることから,女性は,なかなか退席できませんでした。そのような状況の中,さらに酒に酔った社長は,調子にのって,女性にキスを求めてきたのです。

 女性は嫌でたまりませんでしたが,入社したばかりで社長の指示を断ることが出来ず,軽くキスをしてしまいました。

 帰宅した女性は,大きな後悔と嫌悪感にさいなまれ,これからは仕事に専念し,社長の誘いがあっても必ず断ることを決心し,翌日からの仕事に臨みました。

 社長は翌日からも,調子に乗って飲みに誘ったりしてきましたが,女性はこれを断り続けました。すると,社長は態度を急変させ,「仕事がきちんとできない」などと難癖をつけ,入社から僅か1ヶ月程度で女性を退職に追い込んだのです。

 

■ 女性は,意を決して訴訟を提起しました。

 ところが,一審では,「キスは女性が自分の意思で応じたのだからセクハラではない」という理由で敗訴したのです。女性は大変傷つきましたが,どうしても納得がいかず,控訴しました。

 控訴審は年配の3名の男性裁判官が担当しました。尋問においても,「嫌なら断れたのではないの?」などと聞いてきたことから,私は,これでは難しいかも,と思ったのですが,驚いたことに,和解の席で,裁判官は「キスをさせたことがセクシャル・ハラスメントであったことを前提に和解を勧告します」と述べたのです。その結果,相手に相当の慰謝料を支払わせることができました。

 

■ このように,指揮監督関係がある中でのセクシャル・ハラスメントについては,裁判官によって対応が違うことがよくあるように思います。

 また,必ずしも女性の裁判官が理解してくれるというわけでもないように思います。

 「嫌なら断れるでしょう」

 このように述べる女性裁判官に会ったことがあります。

 しかし,男性の私が言うのも変ですが,働かなければならない女性にとって,指揮監督関係に基づく心理的な圧力は,(想像するしかないのですが)大変大きなものであると思います。多くの女性労働者が,「いやだな」と思っても,笑顔で上司の言動に対応せざるを得ない経験をお持ちだと思います。

 従って,事件処理においても,単純に,こちらの受けた被害を並べるだけではなく,「なぜ断ることが出来なかったのか」という客観的な事情を工夫して主張し,裁判所に理解してもらう必要があります。

 

■ いずれしても,そのような被害にあった依頼者に対しては,私自身が男性であって,限界があることをいつも肝に銘じながらも,出来るだけ依頼者の心情を理解するように努めたいと思っています。

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