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2012年11月13日

◆契約書に判をつくということ-ライフサポート事件(弁護士平山敏也)


マンション管理組合から依頼された事件で、このたび、勝利判決を得ました。

 

事案の概要は以下のようなものです。新築のマンションが販売された際、売買契約書に「売り主が業者に委託してライフサポートというサービスを行う」 「売り主と業者の間で締結するライフサポート業務委託契約における売り主の地位をマンション管理組合が引き継ぐ」「ライフサポート契約は10年間解約でき ない」などとする条項が入っていました(紛れ込まされていたと言った方が適切かもしれません)。このサービスの内容については、健康診断や医療サービスな どがあるということでしたが、詳しくは分かりませんでした。マンション購入者は、売り主を信頼して売買契約書に署名・押印したのです。

 

ところが、その後開始されたサービスなるもの、月額61万円もの業務委託費を取りながら、2ヶ月に1度簡単な健康診断もしくはセミナーが行われる程 度のあまりにも杜撰なものだったのです。これではライフサポート業務委託契約書(マンション住民の知らないところで勝手に作られたいい加減なものですが) の内容さえ満たしていません。そこで管理組合はサービス主体との間で話し合いをしてサービスのきちんとした履行を求めたのですが、その後に至るも一向に サービス内容は改善されませんでした。

 

このような「サービス」で10年間合計7400万円もの業務委託費を取られてはたまりません。本来、本件のような契約(準委任契約)は当事者間の信 頼関係が維持されることを前提としているものですから、いつでも解除できるのが原則です(民法651条)。本件では「10年間解約できない」とした契約書 が作成されている点が気になりますが、永遠の契りを交わしたはずの結婚であっても離婚という制度が認められているではありませんか。このようなサービス契 約の解除など当然に認められてよいはずです。

ですから、管理組合は契約を解除した上で、業者に損害賠償請求の裁判を提起しました。これに対して相手方から は、解除は認められないので未払いの業務委託費を支払えと逆に訴えてきました(反訴)。

 

裁判の中では、相手方の主張が二転三転し、証人尋問では数々の矛盾点が明らかになるなど、デタラメなサービスぶりがはっきりしました。ですから、私 としては「いける」と踏んでいました。しかし、1審裁判官の考えは「10年間の契約をしたのだから仕方がない」というものだったようです。

1審判決は完全敗訴でした。自分を信頼し、依頼してくれた住民の皆さんが総額7400万円ものお金を支払わなければならないという重すぎる判断に、 目の前が真っ暗になり、一時は本当に眠れませんでした。しかも、追い打ちをかけるようにインターネット上のマンション掲示板に「弁護士を変えるべきだ」な どという意見が……。

 

しかし、一方に勝者がいれば他方に敗者があるのは世の常です。判決内容は決して説得的なものではありませんでしたので、「まだ控訴審がある」と気持ちを奮い立たせました。

控訴審では60頁の控訴理由書を書いて、1審判決を徹底的に批判しました。自分で言うのもなんですがこれはなかなかの力作で、これによって住民の皆 さんの信頼も回復することができたと思います。その控訴理由書がよかったのか、元々1審判決が無理筋だったのか、高裁裁判官の心証はこちらにとって大変に よいものでした。

控訴審判決では、契約の解除が認められ、債務不履行による損害賠償請求についても既払い額の4分の1の限度で認められました。

相手方は上告・上告受理申立をしてきたのですが、このたび上告棄却・上告不受理の決定が届き、4年に及ぶ紛争に決着が付きました。

 

それにしても、考えさせられるのは契約書に署名・押印することの重みです。マンション売買契約書に本件のような危険が潜んでいるとは、通常誰も思わ ないでしょう。しかし、契約社会においては「そんなことがあるとは思わなかった」という言い分をなかなか認めてはくれません(実は今回の裁判でも契約自体 無効の主張をしていたのですが、これは認められませんでした)。

今回のケースでは、実施されたサービスの内容が余りにも杜撰だった事から無事解決ができました。しかし、もう少しましなサービスが行われていたら ――形式的にはサービスの形が整っていたら――どうだったでしょうか? その「サービス」が対価には到底見合わないような内容のものだったとしても、契約 を打ち切ることは難しかったかもしれません。

 

契約書に署名・押印する際には、内容にしっかり目を通し、少しでも疑問に感じたら詳しい説明を求める、それでも納得がいかなければ弁護士などの専門家に意見を求める、といった慎重さが求められます。

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