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2012年10月30日

◆全社員販売とWEB学習の業務性を争いました(弁護士平山敏也)


NTT西日本を被告として「全社員販売」と「WEB学習」の業務性を争いました。(弁護団は四方久寛弁護士と私)

 

原告のMさんは電電公社の時代からNTTで働いてきたベテランの電電マン(死語?)です。Mさんが行なってきた「全社員販売」や「WEB学習」に費やした時間について「これらは業務である」として残業代を求めたのが今回の裁判です。
「全社員販売」とはNTTグループにおいて行われている制度で、全ての社員が業務時間外に――機会を見繕って――知人などに様々な商品(NTTの商品や、地方の特産物、ハイウェイカードなど)の販売をするものです。これによる利益は会社に帰属します。
「WEB学習」とは、社員のスキルアップのためという名目で、会社の業務に関連するような内容の教材についてインターネット上での学習をさせられるものです。
全社員販売についても、WEB学習についても、全くの任意で行なうのであれば、特に問題はないのかもしれません。しかし、会社が労働者に対してそのような行為を勧める場合、そこには往々にして強制の契機が含まれるものです。
NTTでは2001(平成13)年4月に成果主義賃金制度が導入され、この事も相俟って、社員は「全社員販売やWEB学習をしなければマイナス評価を受け、給料を減額されるかもしれない」というプレッシャーの下、これらに取り組まされてきたのです。

 

この裁判の主たる争点は「全社員販売やWEB学習に費やした時間が労働時間と言えるのか」という点にあります。 裁判の中で、私たちは、全社員販売の目標額(実質的にはノルマ)が1人年間100万円と定められ、各人の達成額についてグラフにして競わせていたこと、上司がWEB学習によるスキルアップを求めていたことなど、会社による指揮監督が及んでいたことを示す数々の事実を明らかにして、業務性の立証をしました。
そして、全社員販売についても、WEB学習についても、チャレンジシート(社員が業績目標を設定し、会社による業績評価の資料となる書面)への記載が求められていること、これにより社員としては全社員販売等を行なわなければ減俸されるかもしれない(実際にもそうされた人がいます)との恐怖の下、会社の意向に従わざるを得なくなることを指摘しました。
これに対して会社側は、これらは任意の取組みであり、多くの社員が全社員販売で年間100万円以上の売上を達成しているが残業代を請求してきたのはMさんだけだ、などと反論してきました。
しかし、多くの社員は、会社と従業員という圧倒的な力関係の下で文句を言えずに全社員販売などに取り組んできたのであり、その中であえて勇気を振り絞って異議を唱えたのがMさんなのです。これらの事情を全く無視して、Mさんのことをあたかも不満分子のように言う会社の主張には唖然としました。

 

2010年4月23日、大阪地方裁判所は全社員販売とWEB学習について業務上の指示によるものであることを認め、Mさんがこれらを行なった時間について労働時間として残業代の支払いを命じました(労働判例1009号31頁)。これは画期的な判決だと思います。おかしな事を「おかしい」と声を上げた1人の労働者が、巨大企業であるNTTに対して勝利を収めたのです。
判決の中には次のような判示がありました。曰く「(全社員販売について)営利企業の営利活動に無償で協力するいわばボランティアがあるとは容易に想定しがたい」。当たり前といえばあまりに当たり前の話ですが、これが通らなかったのがNTTなのです。

 

この地裁判決に対し、会社側は控訴してきました。2010年11月19日に下された高裁判決は、残念ながら逆転敗訴でした(その後最高裁でも敗訴し確定)。高裁判決の理由中においては、「従業員にとっては全社員販売を行なうことは使用者の業務命令によるものであるとの認識を持つに至ったとしても致し方ないとも考えられ、(中略)控訴人(NTT西日本)は、この点で相当に曖昧な態度を取り続けたものであって、法律上の労使関係の配慮に欠けた不明瞭で不誠実な扱いをしていたものと言わざるを得ない」として使用者側の態度を問題視している部分もありましたが、結論的には全社員販売・WEB学習の業務性を否定する内容になっています。

しかし、使用者が業務命令か否か曖昧な態度をとって、それにより従業員が業務命令であると認識を持ったのであれば、それはまさに業務命令によるものと評価すべきでしょう。そうでなければ、使用者としては曖昧な態度を取っていれば(仕事をさせながら)残業代の支払いを免れられることになりかねません。

これは極めて不当な判決であったと思われます。

 

最近、「自爆営業」という言葉をよく耳にします。これは、全社員販売のような形でノルマを課された従業員がやむなく自分で商品を買い入れること(それを金券ショップに買い取ってもらったりする)を言います。NTTグループにおいても自爆している人は相当いたと聞いています。

このような働かせ方が許されてはなりません。Mさんの裁判は残念ながら負けてしまいましたが、それでも判決は「全社員販売」を常に合法と認めたわけではなく、それが業務命令としての性格を持つのであれば賃金を支払わなければならない(賃金を支払わずにさせれば違法である)事は当然の前提になっています。

労働者が人間らしく働けるよう、これからも闘い続けたいと思っています。

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