○ 平成25年8月、大阪市梅田のガールズバーで、料金不足をめぐる客と店長のトラブルから、店長が2階から1階に階段を転落して死亡する事件がありました。この件で客(35歳、会社員)が殺人未遂(その後殺人に切換え)で、曽根崎署に逮捕されました。私が国選弁護人として弁護活動をしました。弁護の成果があり、無実を明らかにできました。その結果、検察官の不起訴処分を得られ、会社員は釈放されました。
その事件について紹介します。
○ ガールズバーで、会社員は、料金4,900円を請求されましたが、所持金は3,300円しかありませんでした。すると、店長は、いきなり、会社員のカバンから、携帯電話と運転免許証入りの財布を取り上げました。会社員は、それを取り返そうとしました。店内で二人がもみ合いとなりました。会社員は、店長から投げ倒されたので、こわくなり、2階入り口ドアを開けて、逃げようとしました。店長は、会社員を逃がすまいとして、背中をつかみました。二人はもみ合って、一緒に、2階から1階へ階段を転落しました。店長は、1階のコンクリート壁に頭を打ち付け、頭蓋骨骨折等の重傷を負いました。会社員は、背中に擦過傷を負っただけでした。会社員は、店長が倒れているのを見て、通行人に救急車の手配を頼みました。その後、駆け付けた警察官に逮捕されました。この事件で曽根崎署は、殺人未遂罪で会社員を逮捕しました。
○ 私は、事件直後、会社員の両親から相談を受けました、そこで、法テラスの国選弁護人として、他の弁護士1名と一緒に、弁護活動をしました。勾留半ばに店長が意識不明のまま死亡したので、事件は殺人罪に切り換えられました。
会社員から事情をよく聞くと、わずか数千円の料金不足で、店長を殺すような意図がないことが、はっきりしました。店長が死亡した結果は重大ですが、実際は二人が一緒に転落した事故だと思われました。
そこで、弁護活動としては、曽根崎署に勾留されている会社員に、ほとんど連日、接見(面会)し、警察や検察の取調べに嘘の自白をしないように激励しました。また、警察官や検察官に、殺人事件ではなく、転落事故であることを説得しました。
店長死亡後は、警察の取調べが厳しくなりました。警察官が脅迫的に自白を迫る場面もありましたが、その都度、警察に抗議して、自白の強要をやめさせました。
その結果、会社員は、最後まで否認を続けられました。
そして、最終的に、嫌疑不十分を理由に不起訴処分となりました。
殺人罪で逮捕、勾留されて、不起訴処分になることは、めったにありません。私は、弁護人として、大きな成果を勝ち取ることができ、大変うれしく思いました。
○ 会社員の声。「最初に曾根崎署で殺人未遂罪で逮捕すると言われた時、びっくりして頭が真っ白になった。弁護士さんのお陰で、無実が明らかになり、本当に感謝しています」
1 はじめに
私が、被疑者国選弁護人として、担当した誤認逮捕事件が、本年4月に不起訴処分となって解決したので紹介します。
2 任意捜査もなくいきなり逮捕
被疑者とされた本人は、30代の男性です。
昨年9月夕刻、東大阪市の住宅で、女性が、侵入してきた見知らぬ男性に体を掴まれたが、大声を上げたので、その男性が逃げたという、住居侵入、強制わいせつ未遂事件が発生しました。
犯人は中々捕まらず、本年3月、布施署は、裁判所から逮捕状を取って、本人の自宅へ来て、逮捕してしまいました。
本人には、事前に任意出頭の呼出しはなく、事情聴取されたこは一度もありません。
本人にとっては、何ら関係のない事件で、いきなり逮捕されたことが晴天のへきれきであり、大変なショックを受けました。
私は、逮捕後、法テラスを通じて、本人の国選弁護人となりました。
裁判所は、検察官の請求により、本人の勾留決定をしました。
3 アリバイ証拠の判明
勾留されている間に、家族が、本人の、通院していた脱毛サロンの予約カードを自宅で見つけました。そこには、犯行日の通院予約が書かれていました。本人は、男性ですがボディビルのため、2・3ヶ月ごとに胸などの電気脱毛に通っていたのです。
さっそく、私は、家族と共に、大阪市北区梅田の脱毛サロンに出かけ、脱毛技能士さんに面会して、当時のカルテのコピーを頂きました。そこには、犯行時刻ころに、約4時間の脱毛施術がされたことが書かれていました。明白なアリバイ証拠が見つかったのです。
4 勾留中の釈放
私は、このカルテなどを裁判所に提出し、勾留取消請求をしました。勾留した裁判官は、そのカルテなどを見て、驚いていました。裁判官は、勾留取消に前向きの姿勢を示しました。
すると、検察官から、本人を釈放する、との連絡が入りました。検察官も、カルテなどのアリバイ証拠を見て、誤認逮捕を認めざるをえなくなったのです。
こうして、勾留決定から7日目に、本人は、検察官から釈放されました。そして、本年4月、検察官は、嫌疑なしを理由に、本人を不起訴処分としました。
5 捜査の問題
本年3月、足利事件の再審無罪判決があり、菅家さんの無実が明らかになったのは、うれしいことです。
菅家さんは、事件に関係がないのに、誤認逮捕されたのです。
ところが、いまだに、菅家さんの場合と同じような誤認逮捕が、大阪府警で行われたことに驚いています。
警察や検察は、なぜ、本人を逮捕したのかを、まったく明らかにしません。
本人に思い当ることを聞いてみると、事件の前後ころ、夜中に、ビデオ店に行くために、現場付近を自転車で通行したことがあり、そのとき、パトカーに職務質問されて、住所・氏名を言ったことがある、というだけです。
おそらく、警察は、何らかの方法で、被害者に対し、本人の写真などを見せ、その際に、被害者は、本人を犯人として特定した、と思われます。
しかし、この程度のあいまいな証拠で、人が逮捕されたのでは、たまったものではありません。
誤認逮捕は、重大な人権侵害です。誤認逮捕をした警察や、それを認めた検察、裁判所の責任は、重大ですね。
最近、相談を受けたり、裁判を依頼されたりしたケースの中で、親子間の金銭贈与をめぐる紛争や相続をめぐる紛争などの家庭内紛争が増えています。
私が担当した裁判では、70歳代の母親が、50歳代の長女に対し、数年前に贈与した多額の現金(銀行から下ろした預金)の返還請求の裁判を起こしてきたケースがあります。
贈与した当時の母親の気持は、長年、世話になってきた長女に対する感謝と長女と同居している孫娘の将来の結婚資金として、預金を贈与したと思われるのです。母親は、銀行へ、長女と一緒に行き、預金を下ろして、長女の口座に振り込んで贈与しました。
ところが、その後、母親は、贈与を否定し、長女が、無断で自分の預金を下ろしたと主張してきました。そのバックには、長男(長女の弟)の反発と返還請求の勧めがあったと思われました。
私は、長女の代理人を務め、贈与の有効性を主張しました。地裁の判決では、長女への贈与の有効性が認められ、長女が勝訴しました。地裁判決に対し、母親が、大阪高裁に控訴しました。高裁では、裁判官の和解勧告があり、長女が譲歩し、贈与の有効性を前提として、ある程度の預金を母親に返還することで和解が成立しました。こうして事件は円満に解決しました。
ほかにも、母親が、娘や息子を訴えて、過去に贈与した金銭の返還を請求するケースがあります。
これらの紛争の原因はどこにあるのか、どのような解決が妥当なのか、色々と考えさせられます。紛争の原因として、高齢者の記憶・判断能力の減退、背後にいる娘、息子間の利害対立、将来の相続をめぐる争い、介護問題などがあるように思われます。
これらの家庭内紛争を解決するためには、弁護士にも、法的な判断のみならず、円満な家族関係を取り戻すための、健全な良識が求められるように思います。