私は趣味でレース鳩を飼っていますが、その縁でいろいろな仕事に携わっておられる方と知り合うことがあります。
20代で椿(ツバキ)に魅せられ、京都市内から加茂町に家族で移り住み、ツバキの育種や改良、普及にとりくんでおられる山口椿園の山口さんもそのおひとりです。これまでにはたくさんの苦労があったと思いますが、ほんとうに温厚で、いつもニコニコと穏やかです。
桜の花はたくさんの人々が鑑賞する代表的な花の一つですが、それに比べてツバキはよく知られていても鑑賞する人は少なく、「ツバキが満開です」などとテレビで報道されることもめったにありません。
山口さんの話を聞いていて、幼いころのツバキの思い出が蘇ってきました。
私は高校卒業まで、「源頼光の丹波国大江山の鬼討伐」に出てくる大江山の麓の村で過ごしました。人家は山の斜面を切り開いた傾斜地に散在し、傾斜地を横切るように、田んぼに水を引き入れる小さな用水路が通っています。用水路の脇には、これを管理する小道があり、普段は近道として利用されていました。
傾斜地には古くから墓地があり、墓地の下の方にツバキの大樹が群生して、用水路と小道をすっぽりと覆い隠すほどのトンネルをつくっています。
昼間でも陽が遮られて薄暗く、普段は子どもたちも近寄りません。
ところが、雪が解けてツバキの花が咲く3月末から4月の頃、このトンネルに出かけてツバキの花を摘み、その蜜を吸って遊んだ幼いころの、なつかしい記憶です。
そんな話から、山口さんに大泉緑地公園(堺市)でのツバキの展示会(と講習会)を教えられ、家から近いので観に行ってきました。
会場にはたくさんの椿(ツバキ)の花や木が展示され、解説文も掲げられていましたので紹介します。
機会があれば、ツバキ花を観賞してみてください。
(ツバキとは?)
暦の上では立春から春の花、この時期を代表する花のひとつ
ツバキ科ツバキ属の植物の総称
日本、中国、東南アジアに自生
日本で最も広く分布するのがヤマツバキ、寒い地域の変種がユキツバキ、この二種の交雑種がユキバタツバキ、チャ(茶)もツバキの仲間
昔は山の民が里に春の訪れを言い触れる植物
ツバキの名の由来は、冬でも落葉せず、厚く照りがある葉を持つため、「厚葉樹(アツバキ)「艶葉樹(ツヤバキ)」と呼ばれていたことによる
18世紀イエズス会の修道士カメルがフィリピンのツバキを紹介したことで「カメリア」の名で、19世紀のヨーロッパで大流行
(ツバキの歴史)
山野に生えるヤブツバキと人の関わりは、5000年以上も前に始まる
身近にあって、材として、またツバキ油として有用で、生活に欠かせないもの
ツバキが観賞の対象であるとの記録が奈良時代の「日本書記」にあり、万葉集にもわずかながら詠まれている
(吉野で白花ツバキが見つかり、天皇に献上された)
鎌倉時代に本格的な観賞対象となる(茶花、生け花、庭木)。それに伴って園芸化がすすむ
なかでも京都は三方を山丘に囲まれてツバキ栽培に適した地で、優れた品種が多く集まり、金閣寺や大徳寺などには大樹が残った
豊臣秀吉も大のツバキ好きで、地方の珍しいツバキが献上された
江戸時代、ツバキ人気は町民にまで広がり、多くの品種が生まれた
江戸、上方以外の尾張、加賀、越後、山陰、肥後などでも、地方の特色を生かした独自の品種が生まれた
ツバキ人気は明治以降いったん衰退、戦後ふたたび盛り上がって現在に至る
(ツバキの活用)
古くはさまざまなかたちで活用
○材木:堅くて緻密かつ均質、木目は目立たず磨耗に強くて磨り減らないなどの特徴。代表的用途は印材
○木灰:日本酒醸造では最高級の木灰、アルミニウムを多く含むので染色にも使われた
○木炭:品質が高く、大名の手焙りに使われた
○椿油:種子を絞った油、「和製オリーブオイル」とも言われて用途が多い
高級食用油、整髪料、燃料、油かすは川上から流して川漁に使用
○葉のエキスは止血薬
(ツバキの言い伝え)
冬でもつややかな葉が豊かで、真っ赤な花をつけるツバキに、昔の人々は生命力の強さを感じ、霊樹として崇め畏敬の念を抱いていた
それを裏付ける不思議な逸話が残っている
鬼を払う卯杖や卯槌をツバキ材からつくった話
若狭八百比丘尼(わかさやおびくに)のツバキ伝説
聖徳太子が挿した比叡山延暦寺のツバキ、日蓮が挿した山梨県のツバキ、弘法大師が挿した大分県のツバキなど徳の高い人がツバキの杖を挿し、
根付いたという言い伝え
ほかに歳を経たツバキが化けるという言い伝え
荒れ寺に出る化け物の正体がツバキの木槌(新潟県)
牛鬼の正体がツバキの古根(島根県)
狸が化けるときに使う葉がツバキの葉