■ 最近,高齢の方から,身寄りがないので今後の財産管理や死後の手続きをどうすればよいか不安であるとの相談を受けることがあります。超高齢化社会を迎え,親族に迷惑をかけずに老後を送りたいという方が増えているのではないかと感じます。
■ しかし,このような高齢者を狙ったトラブルは数多く存在します。還付金詐欺,リフォーム詐欺,最近ニュースになったかんぽ生命保険の契約も,独居の高齢者が被害にあっています。これらのトラブルの原因は,高齢者の方が,誰にも相談せずに一人で判断をして契約をしてしまうところにあります。
■ そこで,ホームロイヤーという考え方があります。高齢者の方が,財産管理能力が落ちてきたときに備えて,弁護士と任意後見契約と見守り契約をする方法です。この場合,何か高額な契約をするときも,弁護士に相談してからにしようという意識になります。
■ 私が受任した件でも,高齢の方で身寄りもないことから,将来に備えて任意後見契約と見守り契約(3カ月に1回の訪問)を結んだ例がありました。この方は,不動産もあることから,どのような遺言書を作成するべきかといった相談もしながら,面談を続けています。
■ トラブルが起こってから,いきなり見ず知らずの弁護士に相談するというのではなく,気心の知れた弁護士と将来の財産管理の相談をすることもできます。ぜひ一度ご相談ください。
○遺言書を作る場合、通常、自筆証書遺言と公正証書遺言が考えられます。
自筆証書遺言は手軽ですが、全文及び日付を自分で書き、署名、捺印しなければなりません。なお、最近民法の相続法の改正がなされ、自筆証書遺言に添付する財産目録は、パソコンで作成したものや預金通帳のコピーなどがみとめられます。但し、財産目録には署名押印をしなければなりません。
また、執行するには、家庭裁判所の検認を受ける必要があります。
○公正証書遺言は,公証人役場で、証人2名の立会で、作成されます。
原案は弁護士などに作ってもらい、その弁護士を、遺言執行人に指定しておくというのが確実な方法です。
○いずれの方法で遺言書を作るときも、全ての遺産を、特定の相続人に相続させると問題が生じます。
相続人には、遺言書でも排除できない最低限の権利があります。これを遺留分(いりゅうぶん)と言います。
遺留分は、原則として遺産の2分の1です(但し、親や祖父母らのみが遺留分権利者の場合は3分の1)。
もっとも、遺留分の権利者は,子及び親や祖父母ら直系親族だけであり、兄弟姉妹に権利はありません。
遺言書で特定の相続人に、遺産を全て相続させると書かれていても、子あるいは親らは、遺留分の回復を求める遺留分減殺(いりゅうぶんげんさい)請求をすることができます。時効期間は原則1年です。
○私が担当したケースでは、親が、長男に全ての遺産を相続させるという自筆証書遺言を作っていました。
それを知った他の兄弟からの依頼を受け、私は、遺留分減殺請求の調停申立を家庭裁判所に起こしました。長男は、調停に応じざるを得なくなりました。
家裁において、遺産の不動産を鑑定する等の手続の後、遺留分相当部分を他の兄弟が相続することで最終的に調停が成立しました。
○遺言書を作成するときは、遺留分相当部分を、他の相続人の相続分として残しておくことが、家族間紛争の未然防止に役立つと思います。
○なお、最近の相続法の改正により、遺留分制度については、遺留分減殺請求を受けた者の請求により、裁判所が遺留分の支払いについて、相当の期限を許与することができることになりました。
また、配偶者居住権の新設などの新しい制度が導入されています。
改正された相続法は、2018年7月に公布され、法務省のホームページでは、施行期日は、原則として公布の日から1年以内で政令で定める日とされています。
遺言方式の緩和は、2019年1月から施行され、配偶者居住権の新設は、2020年7月までの政令で定める日となっています。
■認知症等により判断能力を欠くようになった方について、その配偶者や子、兄弟姉妹ら親族は、家庭裁判所に成年後見人の選任を請求することができます。
成年後見人には、家族がなることができますが、弁護士や司法書士等が選任されることもよくあります。
後見人の主な仕事は、御本人(「被後見人」といいます)の療養看護と財産管理です。被後見人が老人ホーム等に入られるときは、入所契約の交渉をしたり、また預金の入出金等の管理をします。
■私も、家庭裁判所から選任されて、成年後見人や成年後見監督人としての仕事をよくしています。差支えない範囲で紹介しますと、例えば次のようなケースがありました。
このケースでは、親の介護をめぐって兄弟間で意見が対立しました。
そこで兄弟の一人が、家庭裁判所に請求し、私が後見人に選任されました。私は、定期的に被後見人と面会したり、被後見人が入所している老人ホームとも協議をしたりして、介護状態をご兄弟に報告しました。
また、会計の収支報告も、必要な部分は、定期的にご兄弟に報告する等して、介護状態をできるだけオープンにしました。ご本人がお亡くなりになられたときは、遺産目録を作り、相続人全員にお送りしました。
相続人の方は、その遺産目録を基にして、遺産分割協議をされた結果、ご本人がなくなられた後も、大きな紛争が起こることはありませんでした。
■後見人が選任される場合には、さまざまなケースがありますが、弁護士等の法律専門家が後見人となって、被後見人の財産管理を行うことなどにより、親族間の問題を未然に防ぐことにも役立つと思います。
皆さまもお気軽にご相談ください。
◆ 近ごろ、親の遺産相続をめぐって、兄弟姉妹の間で紛争になるケースの相談をよく受けます。
身内のもめごとは、他人同士の紛争よりやっかいです。
両親のどちらかが存命のときは、あまりもめなくても、二人とも亡くなってしまうと、よくもめることがあります。
◆ 遺産分割協議が円満にまとまることもあります。まとまらないときは、家庭裁判所の調停で解決することになります。
調停は話合いですから、調停がまとまらないときは、家庭裁判所の審判という裁判手続で、裁判官が決定することになります。
◆ 親の立場からすると、自分の死亡後に、子らが遺産相続をめぐって、紛争にならないようにしたいものです。
一番良い方法は、親が元気な間に、遺言書を作っておくことです。そして、その内容を子どもたちに説明しておくことだと思います。
◆ 遺言書は、自分で作成することができます(これを自筆証書遺言といいます)。ただし、全文を自署し、日付及び氏名も自署し、印鑑を押さなければなりません。ワープロで作った遺言書は無効です。
◆ 遺言書を確実に作ろうと思えば、公正証書遺言がおすすめです。
これは原案を作り、公証人(元裁判官や元検察官)の役場に持参して、公正証書に作ってもらうものです。原案を作るときは、弁護士に相談したり、遺言執行人を弁護士に指定しておくということもできます。
◆ ただ、親や子どもは、遺留分といって、一定の相続分を受取る権利があります。親だけが相続人のときは、全体の遺産の3分の1、配偶者や子どもが相続人のときは全体の遺産の2分の1です。
できれば、これらも考慮して遺言書を作っておくことが、家族の紛争の予防になるでしょう。