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2014年10月2日

◆司法書士が全面勝訴-司法書士による本人確認はどこまで必要か(弁護士三上孝孜)


■ 司法書士が、抵当権抹消登記の際、本人意思の確認をしなかったとして、損害賠償請求された事件で、司法書士に責任がなかったとして勝訴しました。私は、司法書士側の代理人です。

  

■ 原告(女性)は、息子の友人の社長が経営する不動産会社に5億円を貸付け、不動産会社の土地に抵当権を設定しました。数年後に、社長は、新たに別の金融会社に融資を頼みました。新たな融資を受けるためには、最初の抵当権を抹消する必要がありました。

被告の司法書士は、金融会社から頼まれて、原告の抵当権抹消と新たな融資に伴う金融会社の抵当権設定の二つの登記を依頼されました。

司法書士は、原告(抵当権抹消の当事者本人になる)が取引当日に取引場所である金融会社に来るものと思い、その場で直接、登記意思を確認しようと思っていました。

ところが、取引場所には、社長とその友人である原告の息子しか来ず、原告は来ませんでした。しかし、社長と息子は、原告の委任状と抵当権の権利証(登記済み証)を持参しました。そして、原告は急用で来れなくなった、と説明しました。

司法書士は、原告の意思を直接、確認出来ず、不安がありました。しかし、社長及び原告の息子とは、初対面ではなく、以前に登記取引をしたことがあったので、2人を信頼して、抵当権抹消登記をしました。数年後、不動産会社は倒産し、社長と息子は行方不明となりました。

不動産会社倒産後、原告は、抵当権が抹消されていることに気付きました。原告は、権利証は社長と息子が、無断で原告の自宅から持出したものであり、委任状は偽造されたと主張し、司法書士と金融会社に対し、5億円の損害を被ったとして、その損害の内金8千万円の損害賠償請求を大阪地裁に起こしました。

  

  

■ 司法書士が登記をする場合、原則として本人意思を確認する義務があります。しかし、登記の迅速性の要求との兼ね合いで、どのような場合に、本人意思確認を怠ったとして、損害賠償責任があるかについては、責任を認めた判例や、否定した判例があり、裁判所の判断が分かれています。専門家責任訴訟の一分野です。最近の司法改革で、司法書士の権限が拡大されましたので、その責任が厳しく問われる傾向があります。

  

■ 私は、司法書士の代理人として、権利証と委任状が持参されたことなどを強調して、原告の意思を疑う事情がなかったので、司法書士に責任はないことを強く主張しました。

果たして、大阪地裁の判決は、司法書士の主張を採用し、原告の請求を棄却しました。その理由は、司法書士は、社長やその友人と以前から面識があったこと、その友人は原告の親族に当たるとの説明を登記前に受けたこと、権利証と委任状が持参されたことなどから、原告の登記意思を疑うに足りる事情はなかったとし、原告の意思を直接、確認するまでの義務はなかったとしました。

  

■ 原告は控訴しました。司法書士は高裁でも勝訴の展望はありましたが、裁判所から和解勧告もありましたので、地裁の勝訴判決を前提にして、少額の解決金を支払うことで和解解決しました。

  

■ 被告とされた司法書士は、「勝てると思っていたが、地裁で全面勝訴判決が取れて、うれしかった。そのうえ、高裁でわずかな解決金の支払いで解決して本当に良かった。」と喜んでおられました。

私も勝利的解決が出来てとても良かったと思いました。

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