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2014年4月28日

◆裁判官でも揺れるセクハラの判断(弁護士小林徹也)


■ これまで何件もセクシャル・ハラスメントが問題となる事件を扱ってきました。

 犯罪になりかねない極端な事案は別として,現実には,セクシャル・ハラスメントかどうかの判断は難しいもので,裁判官によっても判断が揺れるように思います。

 

■ 依頼者のプライバシーの問題がありますので詳細は避けますが,かなり以前に,次のような事案を扱ったことがあります。

 社員が20名くらいの小さな出版会社で,入社したばかりの女性社員に対し,社長が,歓迎会と称してバーに誘いました。

 1対1で社長と出かけるのは気が進みませんでしたが,希望に溢れて入社したその女性は,社長の誘いを断ることができませんでした。

 バーでは,酔ってきた社長が肩に手を回してきたり,「彼氏はいるの?」などと聞いてくるようになりました。他方で,そのような話や態度の合間に仕事の話しもすることから,女性は,なかなか退席できませんでした。そのような状況の中,さらに酒に酔った社長は,調子にのって,女性にキスを求めてきたのです。

 女性は嫌でたまりませんでしたが,入社したばかりで社長の指示を断ることが出来ず,軽くキスをしてしまいました。

 帰宅した女性は,大きな後悔と嫌悪感にさいなまれ,これからは仕事に専念し,社長の誘いがあっても必ず断ることを決心し,翌日からの仕事に臨みました。

 社長は翌日からも,調子に乗って飲みに誘ったりしてきましたが,女性はこれを断り続けました。すると,社長は態度を急変させ,「仕事がきちんとできない」などと難癖をつけ,入社から僅か1ヶ月程度で女性を退職に追い込んだのです。

 

■ 女性は,意を決して訴訟を提起しました。

 ところが,一審では,「キスは女性が自分の意思で応じたのだからセクハラではない」という理由で敗訴したのです。女性は大変傷つきましたが,どうしても納得がいかず,控訴しました。

 控訴審は年配の3名の男性裁判官が担当しました。尋問においても,「嫌なら断れたのではないの?」などと聞いてきたことから,私は,これでは難しいかも,と思ったのですが,驚いたことに,和解の席で,裁判官は「キスをさせたことがセクシャル・ハラスメントであったことを前提に和解を勧告します」と述べたのです。その結果,相手に相当の慰謝料を支払わせることができました。

 

■ このように,指揮監督関係がある中でのセクシャル・ハラスメントについては,裁判官によって対応が違うことがよくあるように思います。

 また,必ずしも女性の裁判官が理解してくれるというわけでもないように思います。

 「嫌なら断れるでしょう」

 このように述べる女性裁判官に会ったことがあります。

 しかし,男性の私が言うのも変ですが,働かなければならない女性にとって,指揮監督関係に基づく心理的な圧力は,(想像するしかないのですが)大変大きなものであると思います。多くの女性労働者が,「いやだな」と思っても,笑顔で上司の言動に対応せざるを得ない経験をお持ちだと思います。

 従って,事件処理においても,単純に,こちらの受けた被害を並べるだけではなく,「なぜ断ることが出来なかったのか」という客観的な事情を工夫して主張し,裁判所に理解してもらう必要があります。

 

■ いずれしても,そのような被害にあった依頼者に対しては,私自身が男性であって,限界があることをいつも肝に銘じながらも,出来るだけ依頼者の心情を理解するように努めたいと思っています。

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