2018年10月24日

◆DV被害に遭われた方からのメールの紹介(弁護士小林徹也)


■夫から長い間DV被害に遭われ,その後,私の勧めもあり別居され,離婚調停を起こし離婚された依頼者の方から,先日,メールで挨拶が届きました。
ご本人の了解を得て,固有名詞等を削除したうえで,以下にご紹介致します(それ以外は原文のメールのままです)。
   

■長い間大変お世話になりました。ありがとうございます。
私はいま、エクセルとワードとパワーポイントの資格を取るためにパソコン教室に通っています。来年からは、新たに仕事を探したいと思います。
別れた夫も、再婚されたようです。
これで、安心して暮らせそうです。今思ってもあの生活は地獄のようでした。
昔の私と今の私は別人のように、顔が変わって本当に楽しいから笑えてる!写真を見ると別人のようです。
こんなに、毎日が穏やかに過ごせるとは思っていませんでした。
小林先生が早く解決して下さり、きちんとした対応をして下さったおかげだと思っております。
これからは、私自身が自立して、自分の足でしっかり立って、娘と共に笑って生きていきたいと思います。
本当にありがとうございました。
   

DV被害は、「自分が悪いから怒鳴られるんだ,暴力を振るわれるんだ」と長い間言われ続け、自分で考える力を失ってしまいます。
先々の不安も沢山あり、追いかけて来られるのではないかとの不安と戦い、自分らしさを取り戻すのにはすごく時間がかかりました。
DV被害者も加害者も幼少期の親子関係から被害に合っていて、その生活がおかしいと思いながら、我慢してしまいます。連鎖が続いていきます。
その連鎖を断ち切り、普通の穏やかな生活があるという事を沢山の方に知って頂けたらと思います。
私が自分の口で,友人や身内にDV被害を受けていたと言えるまで時間がかかりました。別居してからでした。
恥ずかしい事だと思っていましたが、私がその事を伝えると数人の友人から、旦那から暴力や暴言を吐かれて生活をしている事がわかりました。
この生活が間違っていると気がつくまでには時間と、回りの手助けが必要です。
私も戻ろうとしてしまいそうな心と戦っていました。恐ろしくても、不安に潰れそうになってしまいます。
ぜひぜひ、沢山の方に知って頂き私みたいに笑って生活が出来るようになればと思います。
   

■この方に限らず,最初に相談に来られたときは生気がなかった依頼者が,別居をして徐々に元気を取り戻され生き生きとされていくのを見ると,私も安心します。
なかなか第一歩を踏み出すことが出来ない方も多いと思いますが,とりあえずお気軽にご相談ください。

2018年10月17日

◆「モラハラ」夫の「特徴」について(弁護士小林徹也)


■別項で「モラハラ」夫について触れたところ,その後もいくつも,「モラハラ」夫との離婚事件を扱いました。
ここに,「モラハラ」(モラルハラスメント)とは,「言葉や態度で巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力」というものだそうです。
不貞や借金を原因とした離婚は別として,離婚事件によく見られる夫は,このような「モラハラ」の常習者であることが多いようです。
そこで,「モラハラ夫」について少し特徴をまとめてみたいと思います(実際に扱った事例での特徴を抽象化したものです。また,すべての条件に当てはまる,という趣旨でもありません)。
   

■外面はよく仕事も結構真面目にする
「モラハラ夫」は,体裁を重んじ外面はよく,妻の友人などにも「よき夫」を演じていることも多いのです。
このため,妻はなかなか周囲に理解してもらえないことがよくあります。
また,仕事をよくする以上,経済面で家計費を中心的に担っていることが多いようです。
   

■妻や子は自分の「所有物」と思っている
基本的に妻や子を独立した一個の人格として見ていません。従って,「モノ」として大事に扱うことはありますが,自分の思い通りに動かないと大変機嫌が悪くなります。
「誰の稼ぎで食べているんだ」が口癖の方が多いようです。
   

■妻との関係で自分が絶対に正しいと思い込んでいる
とにかくモラハラ夫は,家庭内では自分が絶対に正しいと思っています。従って,妻や親族がどれほど説明しても絶対に自分の考えを曲げません。
   

■妻が納得するまで延々と話し続ける
そして,自分の考えが受け入れられないと,延々と(何時間も,場合によっては深夜まで)話し続け,妻が「自分が間違いでした」と認めるまで止めません。
このようなことが長年続くため,妻はそのうち,「マインドコントロール」されてしまい,夫の言っていることは常に正しく,自分が叱られるのが当然だと思いこむようになってしまいます。
家庭では,夫が主導権を握り,妻は夫の機嫌ばかりを伺うようになっていきます。
夫は,妻の行動にいちいち文句をつけたり,舌打ちをしたりします。また,機嫌の悪い時は無視を決め込みます。
これに対して,妻は,限界に至るまでそのような生活を続けることが多いようです。
   

■感情の起伏が激しい
とことん自分の主張を述べたかと思うと,翌日には別の人間のように優しくなったりします。
このため,妻は,「このような優しいところもあるのだから」とついつい自分を犠牲にして我慢してしまい,なかなか離婚に踏み出せないことが多いようです。
   

■両親や「家」を重んじる
モラハラ夫は,意外と自分の両親や「家」というものを大事にする傾向があります。
このため,離婚する条件として,今後妻や子が夫の姓を名乗らないことを主張してくる場合がよくあります。
   

■とても強い自己愛
自分のことには贅沢にお金を使うことが多いようです。
他方で,妻のみならず自分以外の人間に金を使うことを嫌う傾向があることから,モラハラ夫は意外と不貞に走りません(愛人にすら金を使いたくないようです)。
   

■このような傾向が分かったからといって直ちに救われるわけではありませんが,他方で,このような夫のもとで「私が間違っているのだろうか。私さえ我慢すればよいのだろうか」と悩んでいる方も多いようです。
直ちに救いの手となるかは分かりませんが,上記のような夫のもとで離婚を考えておられる場合には遠慮なくご相談ください。
別居後や離婚後には別人のように生き生きとされている依頼者をこれまで何度も見てきました。

2018年9月19日

◆収入の資料が少ない中,多額の婚姻費用が認められました(弁護士小林徹也)


■会社社長を相手とする婚姻費用の請求
自分で会社を作り,代表取締役を務めている夫を相手方として,妻の代理人として婚姻費用請求の申立を行いました。
相手方は,一応,会社から給料をもらっているという形をとっており,その資料として源泉徴収票を提出してきました。ただ,ゴルフ代や自家用車についても会社の経費として会社経理から支出しているようであり,源泉徴収票の金額だけが収入とするのは到底不合理なものでした。
   
 
■夫の生活状況について出来る限りの証拠を提出
ところが,通帳などもすべて相手方である夫が握っており,こちらは明確な資料が出せません。
そこで,夫の生活状況(持っているブランド物の衣服の写真,ゴルフに行っている写真など)を出来る限り提出し,「この収入でこんな生活ができるはずがない」と訴えました。
話し合い(調停)では結論が出ず,家庭裁判所に決めてもらうこと(審判)になったのですが,裁判所は,「夫の収入はもっと多い」という判断はしてくれなかったものの,夫も認めざるをえない様々な事実を根拠に,源泉徴収票から認められる金額よりもはるかに多い婚姻費用を認めてくれました。
   
  
■時には「血も涙もある」裁判所
一般の方は,裁判所は,数字を公式に当てはめるように,形式的に事実を法律に当てはめて結論を出していると思われるかもしれません。法律には,そのような計算式が定められていると思っている方も多いように思います。
ただ,私のこれまでの経験からすると,(もちろんいつも,というわけではありませんが)裁判所なりに,「この人を救わなくてはいけない」と考えると,少々理屈を曲げてでも,結論を出すことがあります。つまり,まず「この人を救う」という結論から理屈を考えるのです。
これは決して不当なことではありません。
法律はすべて,憲法13条の「個人の尊厳」を守るためにあります。つまり個人が尊重される結論でなければならないのです。
仮に,形式的な法律の適用がこの結論に沿わないなら,実質的にできるだけこの結論に合うような解釈を行うことはある意味当然なのです。
   

■そこで,私は,裁判所に対して,法的な理屈や,その根拠となる証拠だけでなく,「どうしてこの人を救わなくてはいけないのか。この人を救わないことが個人の尊重という原則に反している。」といったことも積極的に訴えるようにしています。
この件でも,(守秘義務の関係で詳細は言えませんが)理屈とは直接には関係ない相手方の不誠実な態度,それに対して妻である依頼者が出来る限り誠実に対応してきたこと,を訴えました。
そのような訴えに対する答えは,判決の表面には決して現れませんが,よく読むと,裁判官なりの「良心」が現れているような気がします。
   

2018年9月12日

◆不貞相手への慰謝料請求(弁護士小林徹也)


■不貞相手に慰謝料請求はできますか?
「妻とはうまくいっていない」「妻とはもう長年夫婦関係もない」「もうすぐ妻と別れて君と一緒になるつもり」などと言われ、相手の男性に妻がいることを知りながら、関係を続けたあげくに、男性から別れを切り出された女性からの相談を何件もお聞きしたことがあります。
このような場合、その女性から男性に対して慰謝料請求はできるのでしょうか?
   

■不貞の末の慰謝料請求は虫が良すぎる?
もちろん、相手方男性に妻がいることを知って関係を続けた以上、そのような女性から男性に慰謝料を請求するのは虫が良すぎる、という意見もあるでしょう。
法律的にも、このような慰謝料請求を認めることは、かえって不貞関係を保護することになり認められない、というのが原則論・建前論です。
ただ、このような関係もほんとうに様々です。
私が扱ったいくつかの事件では、(守秘義務の関係で詳細は述べませんが)男性側が,妻と別れることを示唆しながら,主導的に女性を誘ったうえ、何年もの交際のすえ、男性側の都合で一方的に別れを切り出したものです。 
女性は、その男性のために様々な機会を逃しました。それも一緒になれると信じていたからです。
そのような事情次第では、資力のある男性が、せめて金銭的な面で一定の「償い」をすることも、女性にとって必ずしも「虫がいい」とは言えないのではないでしょうか。
特に、日本における女性の社会的地位は、男性と比較してまだまだ低く、様々な点で,女性が男性との関係で主体的になることはできません。そして、それは決して当該女性のみの責任ではないと思います。
私が扱った事件でも、示談で済んだものだけではなく、裁判までいったものでも、(もちろん裁判官にもよりますが)裁判官の説得により男性から一定の金額の慰謝料を獲得しています。
   

■法で解決できるのは経済面だけですが…
このような相談を受けた時、私がいつも依頼者の方に申し上げるのは、「法律で解決できるのは金銭面だけです。あなたが味わったすべての苦しみを解決することは到底できません。ただ、自分にとっての区切りとするために、示談をすることも意味があるかもしれません」ということです。
弁護士は、所詮、法律という限られた分野での専門家に過ぎません。ただ、法的な解決が、気持ちの中で一定の区切りになることもまた事実です。
同じくこのような事件でよく依頼者の方に言うのが、弁護士としてではなく、あくまで個人的な意見として、と断ったうえで、「早く前向きに生きたほうがよいですよ」ということです。
もちろんなかなか割り切れるものではないと思いますが,他方で,客観的な第三者から「どうにもならないことである」という認識を示してもらうのも意味があることもあり得ます。
いずれにしても,依頼者の方とよく話し合って、よい解決を目指したいと思います。
   

2018年8月29日

◆離婚事件と子どものこと(弁護士小林徹也)


■最近離婚事件の受任が増えています。
出来る限り身内で解決してしまおうとする発想から、徐々に、第三者的な機関で合理的に解決してもらったほうがよい、という考えが浸透してきているせいでしょうか。
そのこと自体は必ずしも悪いことだとは思いません。
   

■ただ、私がいつも気になるのは、子どものことです。
夫婦は、それぞれが一応は、自分の選択で選んだ相手です。
もちろん、問題のある配偶者の法的責任を否定するものではありませんが、ある意味、自分で選んだのだから仕方ない、という側面は否定できません。
   

■他方で、子どもは生まれてくる環境を選べません。両親を選ぶことはできません。
そして、子どもたちは、幼くても、両親の仲についてとても敏感です。
また、思った以上に気を遣っています。このような敏感で繊細な子どもの心を最も苦しめるのは、親権者の選択の意向を確認される時のように思います。
   

■私が扱った事件においても、離婚自体には合意していても、父親も母親も「子どもは自分のほうになついている」と言って親権でもめることがよくあります。
このような場合、父親も母親も積極的に嘘をついている場合は少ないように思います。
むしろ、子どもが、それぞれの親から例えば「お父さんとお母さん、どちらが好き」などと聞かれた時に、聞いた親の事を慮って、その親に好意を示す表現をすることが多いのです。
   

■依頼者の方は、このような場合、「私のほうに来たいと言っている」と主張されますし、私自身もそれを否定する根拠があるわけではないのですが、子どもの繊細な心情を出来るだけ共に考えるよう心がけています。
   

■また、子どもの年齢にもよりますが、場合によっては家裁の調査官という立場の専門家が、子どもの意向を確認する場合もあります。
私も経験したことがありますが、専門家と言えども短時間での様子からの判断ですから、絶対に正しいとは言えない場合もあり難しいところです。
   

■生まれてくる環境を選べず、また、自らの気持ちをきちんと表現する力も備わっていない子どもらが紛争に巻き込まれている姿を見ると、いつも心が痛みます。

2018年8月8日

◆不貞問題に関する相談が増えています(弁護士小林徹也)


■不貞問題に関する相談が増えています。
夫が別の女性と不貞をしたので慰謝料を請求したい,あるいは不貞相手である男性の妻から慰謝料を請求された,などです。
今回は請求された場合のことを中心に述べたいと思います。
   

■不貞,すなわち配偶者がいることを知りながら,夫である男性,または妻である女性と男女関係を持つことは,法律上,違法行為と評価されます。
私も弁護士である以上,これを正当化することはできません。
他方で,相談を聞いていると「不貞を行った人=社会的に不適格な人」と決めつけることはできないように思います。
   

■相談に来られる方(たまたま女性が多いのですが)の多くは,極めて普通の常識を持っておられます。
逆に,だからこそ,「自分が誤ったことをした」という罪の意識にさいなまれ,憔悴しておられる方が多いように思います。
そのような場合,弁護士として具体的に出来ることは,相談者の経済的な負担(つまり支払う慰謝料の金額です)を出来るだけ減額することがメインとなりますが,他方で,「弁護士に相談に来られた以上,経済的な問題と割り切って前に向かって進んでください」と励ますようにもしています。
   

■乱暴な言い方かもしれませんが,このような種類の事件をお受けして,最終的に解決しなかったということはありません。
弁護士に相談することは勇気がいるかもしれませんが,私としては,出来るだけリラックスしていただけるよう配慮しています。
まずは,お気軽にお電話ください。

2017年8月29日

◆夫婦関係修復のために弁護士は役に立つか (弁護士小林徹也)


■ 言うまでもなく,夫婦関係について弁護士のところに相談に来られる方は,「離婚したいけれどどうすればよいか」という内容がほとんどです。
 しかし,もちろん中には「配偶者から離婚を求められているが自分は修復したい。どうすればよいか」という相談もあります。

  
■ 正直申し上げて,弁護士というのは,離婚する場合に生じる親権・財産分与・慰謝料等の種々の問題について解決する手段を提案することはできても,破綻した(あるいは破綻しかかっている)夫婦の関係を修復する「法的解決方法」を持ち合わせていません。
 もちろん,形式的に調停を申し立てて,調停に同行させていただく,というレベルでのお手伝いはできますが,一度離れてしまった相手方の気持ちをこちらに取り戻す,というような「天使」のような役割は到底果たせません。

  
■ 他方で,弁護士は,多かれ少なかれ「説得」の技術を持ち合わせています。
 「気持ち」を変えることはできなくとも,(嫌な言い方ですが)離婚に伴う社会的・経済的な不利益を主張することにより,相手方の「離婚したい」という「決意」を鈍らせることはできるかもしれません。
 そして,仮に,一時的に「決意」が鈍り,時間をかせぐことができれば,「気持ち」の変化をもたらすチャンスは増えるように思います。

  
■ 私自身,よく「関係を修復したい」というご相談を受けることがあります。そのような場合には,「法的専門を離れたあくまで一個人の意見」として,過去の様々な事例から破綻した夫婦の問題点などを(もちろん守秘義務に反しない範囲で抽象化してですが),お話し,修復に向けた話し合いの「ポイント」を助言することはあります。
 このような場合,ほとんどは相談だけに終わることが多いので,どこまで役に立っているが検証は困難ですが,何も聞かないよりましかもしれません。

2016年11月22日

◆夫の「モラハラ」と離婚②(弁護士小林徹也)


■以前に別項で,夫のモラルハラスメントについて触れましたが,少し前に私が扱った事件で,「モラハラ」を理由とした比較的高額の慰謝料が認められました。
  

■この事件でも,夫は,自分が絶対正しいと思いこんでいて,その考えを曲げようとしませんでした。そして,一度口論になると,長期間,妻を無視するのです。
 妻は,長年,なぜこのような仕打ちを受けるのか,自分が間違っているのか,と悩み続けました。
 しかし,ある公的な相談窓口において,夫の行為が典型的な「モラハラ」であることを知るに至り,離婚を決意し当職に相談に来られました。
  

■訴訟においても,夫は,決して自分の主張を曲げなかったことから長期化しましたが,慰謝料自体が減額されることはありませんでした。
 夫の不貞という事情もない中では,かなり高額な慰謝料であったと思います。
 裁判所にも,単なる「性格の不一致」とは異なる,一方配偶者による「モラハラ」が違法なものであるという理解が徐々にですが広まってきているのではないでしょうか。
  

■もし夫婦関係で悩まれており離婚を考えているものの,「自分にも問題があるのでは」などと思いこんでおられる方がおられましたら,一度ご相談ください。
 弁護士である以上,法的な解決手段しかご提案できませんが,一定の範囲で同様の事例をご紹介しアドバイスさせていただきます。
   

2016年8月3日

◆離婚事件のご相談を聞くにあたって心がけていること(弁護士小林徹也)


■皆さんから離婚事件の相談を受けるにあたって,いつも心がけていることがあります。それは,①法律家としてのアドバイスと,②法律家を離れた個人としてのアドバイスを,相談者に分かるように分けて説明することです。
   

■弁護士としての意見
 これは,すでに離婚を決めておられる方が,配偶者や,あるいは不貞相手に対し,どのような法的手段を採ることができるか,を説明することです。
 婚姻中であれば婚姻費用の請求ができること,不貞相手に対しては慰謝料の請求ができること,過去の事例に照らしてどれくらいの金額が請求できるか,などです。
   

■個人としてのアドバイス
 ただ,相談に来られる方(女性が多いですが)が,きちんと気持ちを整理して方針を確定させていることはそれほど多くありません。
 当然のことながら,長い時間をかけて,全人格的な結びつきを目指した婚姻生活を終わらせようかと考えているのですから,単純にお金の問題だけに置き換えることは困難なことが多いのです。
 そのような場合に,安易に「それは離婚したほうがよいですよ」とか,「離婚したら経済的に大変ですよ」とか言うことはできません。
 ただ,相談者は,弁護士のことを「専門家」と見ておられることが多いですから,そのような意見ですら「従ったほうがよいのかも」と思いがちです。
   

■弁護士は法律の専門家に過ぎません。
 私たち弁護士は,法律については国家的な資格に基礎付けられた専門的な知識を持っていますが,それ以外のことについては基本的に素人なのです。
 もちろん,同種の事件を数多く扱うことによって,法律以外の知識が蓄積されることもありますが,多くの場合,弁護士資格のように,そのことを客観的に証明することはできません。
   
 
■そこで,私は離婚の相談を受けた場合には,「あなたが離婚しようと決めた時にはこのような法的手段があります。ただ,離婚したほうがよいかどうか,不貞相手に請求するかどうかについては,お気持ちの問題もあり,弁護士としてはアドバイスすることはできません。ただ,あくまで私個人の意見として申し上げるなら~」として,法的なアドバイスかどうかをきちんと分けて説明するようにしています。
   

■もちろん,そもそも弁護士がそのような個人としてのアドバイスをすべきではない,という意見もあるでしょう。
 しかし,現実に,離婚問題で憔悴しておられる相談者を目の前にすると,例えば,「どんな複雑に見える離婚事件も必ず終わりましたよ」とか,「とりあえず今すぐに決めずに,しばらく何も考えずにゆっくりされてはどうですか」などと言うことがあります。
   

■いずれにしても,弁護士にとっては多くの事件の一つであったとしても,相談に来られる方にとっては,人生の一大事である,ということを常に意識しながら,ご相談をお聞きするように心がけています。
   

2013年6月21日

◆離婚しても子どもと会わせてほしい!――増加の一途をたどる「面会交流」事件(弁護士高木吉朗)


離婚事件は近年増加の一途をたどっていますが、特に対応が難しいのは、離婚して親権を手放すことになる方の親と子どもの「面会交流」の問題です。

 

以前は「面接交渉」という言葉が一般的でしたが、ちょっとかた苦しい言葉のためか、最近は「面会交流」という言葉が主流となっており、平成23年の法改正で法律にも「面会及びその他の交流」という表現が加わりました(民法766条)。

 

最近私が担当したある離婚事件では、私は母親側の代理人でしたが、父親側は子どもの親権を手放すことにはしぶしぶ同意したものの、定期的な面会交流を強く求めていました。しかし母親は、子どもを父親に会わせることに強い抵抗感をもっていました。

 

結果的には、半年に1回の面会交流を行うこととし、また、1回目に限り、子どもたちが遊んでいる様子を父親が遠くから見守るだけにする、という、ちょっと異例の決着となりました。母親の言い分をかなり尊重してもらった結果ですが、父親の側も、子どものことを真剣に考える姿勢を示したためにこのような結果につながったといえます。

 

離婚して親権を手放した親が、離婚後も子どもと定期的に面会交流をすることは、子どもの成長にとって重要です。夫婦が離婚するときは、子どものために円滑に面会交流ができるよう配慮することが大切です。

 

 

もっとも、面会交流は、あくまで子どもの健全な成長に好ましいと考えられるからこそ認められるものですから、面会交流を行うことが子どもにとって大きな負担となるようなときは、無理に面会交流をすべきではないと思います。ある元家庭裁判所裁判官も、「強く反対する親権者の意思に反して面会交流を強行した結果、子どもの心に大きなダメージを与えてしまったケースがある」と指摘しています。

 

ところが、弁護士や家庭裁判所の調停委員の中には、「親(または子)には、面会交流を求める権利がある」と当然のように考えている人もおり、対応に苦労することがあります。

  

アメリカなどのように、離婚後も両方の親が共同で親権を持つのが原則とされているならば、面会交流を「親(または子)の権利」と構成することも可能でしょうが、離婚したときは一方の親のみが親権を持つとされている日本の法制度の上では、面会交流を控えるべき場面があることはやむを得ないところでしょう。

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