2019年9月4日

◆医療関係の御相談には出来ればカルテ等をお持ちください(弁護士小林徹也)


■治療や手術などにおいて医師がミスをしたのではないか,などというご相談をよく受けます。
別項『カルテの証拠保全について』でも説明しましたが,仮に訴訟となった場合には,裁判所は必ずカルテの提出を求めます。
従って,単にご相談を受ける場合でも,出来れば事前にカルテを取得していただくほうがご相談に乗りやすいのです。
   

■例えば,口頭で,「歯医者に行ったところ,不要な検査をされ,そのために怪我をした」という相談をされた場合,具体的に何の治療のために,どのような内容の検査をされたのか,が事前に把握できませんと,弁護士としても請求が難しいのです。
「不要な検査をされたために怪我をしたので賠償を求めます」などといった抽象的な請求を相手方にしたところで,医師は,当然「~ということで来院されたので,~という必要な検査を行った。その際,怪我などはさせていない」という回答をしてくる可能性が高いのです。
従って,このような請求をする場合には,どのような内容の検査であったのかを事前に確認し,これがどのような場合に必要とされるものかを調査したうえで,請求を行う必要があります。
   

■従って,医療に関するご相談をご希望の場合には,出来るだけカルテをお取り寄せいただいたうえでお越しいただくか,少なくとも,診断書等をお持ちくださるようお願い致します。
カルテの取得方法については,前述の別項をご覧ください。
   

2018年9月26日

◆動物病院における医療過誤事件について(弁護士平山敏也)


・最近、ペットの医療過誤についての裁判が増えています。私が担当した事件で、動物病院の過失が認められたケースを報告します。
   

・依頼者のAさんは、飼っている犬(ヨークシャーテリアのアイちゃん)が食欲不振になったので大阪市内の動物病院に連れて行ったところ、検査の結果、腎臓の数値に問題があることが分かりました。
動物病院の院長はAさんに子宮全摘出手術を行なうことを勧めました。エコーの画像では子宮に悪いところが見当たらなかったにもかかわらず、Aさんに「腎臓は特別に悪くはない。子宮蓄膿症の疑いがある」と説明したのでした。
Aさんは「それならば」と子宮全摘出手術をしてもらうことにしました。
しかし、手術の結果、子宮に悪いところはありませんでした。しかも、その後、アイちゃんの腎臓の状態は悪化し、死ぬまで点滴を続けなければならないことになりました。
   

・「アイちゃんは、無関係の手術を行なったことにより、慢性の腎臓病(慢性腎不全)になってしまった」、私たちはそう考えて、動物病院に対して提訴することにしました。
私たちが問題にしたのは、①元々腎臓の弱っている犬に、不要な手術(しかも全身麻酔の)という負担をかけたこと、②手術の際に使うべきでない鎮痛剤を使用したこと、③手術後必要十分な点滴を行わなかったこと、の3点です。
   

・裁判の中では、多数の文献を提出し、腎臓の専門家である獣医師の先生に証言をしてもらうなどの立証を尽くしました。その中で「全身麻酔での手術は、腎機能が正常な犬であっても血圧低下により腎臓への血液量が低下し、腎機能は正常の50%程度に一旦は低下する」ということが明らかになるなどしました。
   

・一審の大阪地裁判決では上記の②と③について獣医師の注意義務違反を認め、これによりアイちゃんが慢性腎不全になったと判断し、116万5302円の損害賠償を認めてくれました。この種事案について100万円を超える賠償額というのは大変高額なもので、金額的には大変満足のいくものだったのですが、Aさんとしては上記①を認めてもらえなかったことに悔しさが残りました。

・そこで苦渋の決断の上、控訴しました。
大阪高裁は①~③の全ての注意義務違反を認めてくれたのですが、その一方で手術後の点滴費用等について注意義務違反行為との因果関係が認められないとして、損害賠償額を28万4260円へと大幅に減額されてしまいました。
実は、手術後転院した先の獣医師がアイちゃんの症状を非定型アジソン病と診断していた事情もあり、因果関係が認められるかには若干の不安があったのですが、それが的中してしまいました。非定型アジソン病というのは副腎の病気で、そもそもその診断自体に疑問があるのですが、私たちの主張は認められませんでした。
その後、最高裁に上告しましたが残念ながら認められず、高裁判決が確定しました。
   

・これまで民法では物と扱われていたペットですが、飼い主にとって、ペットは家族です。今回の地裁判決は、飼い主の思いに正面から答えた判決であったと思われます。高裁判決はやや揺り戻されてしまった印象もありますが、それでも獣医師の注意義務違反を3つの点で認めてくれました。
本件判決を踏まえて、今後、動物の医療過誤に関する裁判がどのような流れになるのか、注目されるところです。

2017年1月6日

◆カルテの証拠保全について(弁護士小林徹也)


■ 医療過誤訴訟にカルテは不可欠
 医療過誤など医療に関する責任追及には,当該患者の医療記録(カルテ)の検討が不可欠となります。
 医療過誤訴訟を提起する場合,裁判所より必ずカルテの提出を求められます。
 カルテについては,患者(あるいは遺族)が,病院に対して任意に開示を求めることができます。原則として,病院はこれを拒否することはできません。
   

■ カルテの収集方法
 具体的な収集方法ですが,病院に申し込むとコピーをして渡してくれるところもあります。この場合,実費として,カルテ1枚につきコピー代10~30円を徴収されることが多いようです。
 また,これも病院によりますが,カルテの開示だけを受けて,それを当該病院の一室で自分でコピーしなければならない場合もあります。
 コピー機がないような病院で,しかもカルテ自体の貸出を認めない場合には,デジタルカメラを持って行き,その場で撮影する場合もあります。
 いずれにしても病院によって対応が異なりますので,事前によく確認してください。
   

■ カルテの証拠保全について
 カルテが開示前に改ざんされることを危惧して,証拠保全という手続を行うことがあります。
 これは,裁判所に申し立てて,日程を調整し,事前に病院に知らせることなく,ある日突然に,裁判官,書記官,代理人らで当該病院を訪れ,カルテを開示させるものです。
 基本的に病院はこれを拒否できませんので,事前の改ざんの危険性が減少します。
 但し,申立さえすれば簡単に認められるというものでもなく,裁判所に対し,ある程度具体的に,医療過誤等の内容を書面で説明する必要があります。
 このような作業は,専門家である弁護士に依頼したほうがスムーズです。
   

■ いわゆる電子カルテについて
 かつては,手書きのカルテが多く,証拠保全をする場合でも,改ざんの痕跡がないかを,現場でかなり細かくチェックする必要がありました。
 しかし,最近はいわゆる電子カルテが増え,改ざんの危険性はかなり減少したように思います。
 大きな病院にある一般的な電子カルテのシステムでは,一度入力したものは,書き直しても原則として消えません(通常,当該箇所に線が引かれ訂正したことが分かるようになっています)。
 また,入力する際には,職員個々人が持つID番号を入力しなければならないことになっており,誰が入力・訂正したかも明らかになります。
 確かに,このシステム自体を不正に書き換えるということも理論的には考えられないことはないですが,そのようなことをするためには,システム自体を作成した業者の協力が必要となる可能性が高く,そのようなリスクを冒す業者がいる可能性は低いのではないでしょうか。
 従って,電子カルテ自体については証拠保全の必要性はそれほど高くないようにも思います。
   

■ 手書きの書類について
 ただ,電子カルテが導入されている病院でも,患者本人の同意書などは手書きされたものをスキャナーで読み込んでいる場合が多く,その同意書自体に疑義があるような場合には,その原本を確認する必要があります。
 この意味では,電子カルテのシステムを導入している病院においても,証拠保全の必要性はあると思います。
   

■ お気軽にご相談を
 いずれにしても,どの方法を採るかはケースによって異なります。お気軽にご相談ください。
 但し,入手したカルテを元に損害賠償請求を求める場合には,さらに専門的な検討が必要となり,その場合には協力していただける医師の存在が不可欠となります。
   

2012年11月8日

◆「お金よりも謝罪してほしい」という思いは叶えられるでしょうか?(弁護士高木吉朗)


■裁判の場で「謝罪」させるのはやはり難しい・・・

医療事故に遭われた被害者の方が裁判に訴えようとするとき、原告となる方が抱く思いはさまざまです。

最も多いのが、「お金を払ってほしいわけじゃないんです。ただ、対応にミスがあったことを認めて、きちんと謝罪してほしいんです」という訴えです。このような被害者の方の思いは、裁判所に通用するのでしょうか。

残念ながら、裁判の場で医療機関に謝罪してもらうことは、なかなか難しいのが現状です。その理由は、「お金を払う」のであれば、裁判所が「差し押え」などの方法で強制することが可能ですが、「謝罪する」という行為は、裁判所が強制することは出来ないからです。

 

■まれに、「謝罪」が実現するケースもある!

ここで、私(高木)が経験したケースをご紹介しましょう。

被害者の方は、脳梗塞を発症したため、会社を休んで病院に入院していましたが、後遺症は軽度で、自力で動き回ったり会話をすることも十分可能な状態でした。

ところがある晩、脳梗塞が再発し、その当時の当直医の対応に不手際があったことも影響して、その方は重い後遺症が残ってしまいました。それ以後、明瞭な会話は難しくなり、また、自力で動き回ることも難しくなりました。会社へ復帰する夢も絶たれてしまいました。

この事件で、病院側は、当直医の対応にやや問題があったことは否定しなかったものの、法的責任を認めなかったため、裁判になりました。裁判では、当時の当直医の対応のまずさと後遺症の発症の間に因果関係があるか、が最大の争点となりました。医学的には、仮に当直医が適切な対応をしていたとしても、脳梗塞の再発は避けられなかった可能性があったからです。

裁判所は、別の医師を呼んで参考意見を聞きましたが、この医師も、当直医の対応のまずさと後遺症の発症の間に因果関係があるとは言い切れない、という意見を述べました。したがって、もしこのまま判決を受けていたら、被害者側が敗訴した可能性もかなり高かったといえるでしょう。

しかし裁判所は、「病院が適切な対応をしてくれていれば、仮に後遺症が残ってしまったとしても納得できただろうに・・・」という被害者の悔しい思いを受け止め、和解を強く勧告したのです。判決になれば被害者側が敗訴していた可能性が相当高かったことからすれば、裁判所の和解勧告は、何とか被害者の思いに答えようとした姿勢の表れといってよいでしょう。

結局、病院側も裁判所の説得に応じ、一定の金額(決して十分な額とはいえませんでしたが・・・)を払うことで和解することになりました。

そうすると、次は具体的な和解条項を確定していくわけですが、当初裁判所が示した和解条項の案では「○○病院は、本件について遺憾の意を表明する」となっていました。

これに対しては、当方から、「遺憾」は単に「残念だ」というだけの意味にしかならず、被害者の思いに十分答えたものではないので、明確に「陳謝する」という謝罪の言葉を入れてほしい、と強く主張したところ、裁判所もこれに応じ、さらに病院側もこれを受け入れました。

こうして、法的な因果関係が不明であるにもかかわらず、「陳謝する」という言葉の入っためずらしい和解が成立したのです。

 

■新たな第一歩のために

和解が成立したとき、被害者の家族の方は裁判官に向かって「これから家族みんなで前向きに生きていきます」と深々とお辞儀をされました。

これに応じて、担当裁判官も、「この和解成立が、ご家族の新たな第一歩になることを祈っています」と頭を下げられました。

被害者の方とそのご家族にとって納得のいく解決となり、私自身も安堵した瞬間でした。

 

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