2018年5月30日

◆増えてきた中国企業との訴訟(弁護士小林徹也)


■近年,中国の会社と取引を行う日本企業が増えています。大企業ばかりではなく,小さな商社などが企業の請負として,中国の会社に発注することはよくあります。
   

■中国企業の技術は近年格段に上がってきてはいますが,それでも日本企業が要求する品質に合致しないことがあります。特に大量の製品を発注した場合などは,受注した中国の会社がさらに町の小さな会社に下請けさせることもよくあり,そのような場合には,発注元の要求する基準を満たさないことが起こりえます。
   

■不良品が少ない場合には話し合いでなんとか解決しているようですが,不良品が大量な場合などには,日本の会社が支払いを拒否することが当然起こりえます。そして,これに対して,中国の会社が日本の弁護士に依頼して,裁判を起こしてくることがあります。
ただ,このような取引の場合,きちんとした契約書もなく,また,品質についても明確な基準がなく,いざ争いとなった場合には,事実関係がかなり複雑になることがあります。
   

■このような事案においては,当初は,当事者同士で解決しようとすることが多いのですが,専門家の立場からすれば,問題が生じ始めた時点で早期に相談に起こしいただき,文書による合意など適切かつ迅速な対応をしたほうがよい場合が多いのです。
いずれにしても遠慮なくご相談ください。

2018年3月6日

◆家賃の値上げ(弁護士小林徹也)


■「大家より賃料を値上げすると言われたが,応じなくてはいけないのか」との相談を受けることがあります。
   

■賃貸借契約というのはあくまで「契約」,つまり当事者で決めた約束ですから,賃料も含めて,いずれかが一方的に内容を変更できるわけではありません。
従って,大家さんが一方的に値上げを宣言してきたからといって,これに無条件に応じる必要はありません。また,その申し入れを無視していただけで,これに応じたことになったりはしません。
   

■但し,契約締結から何年も経過していて,今となっては,賃料が周囲の相場に比較して安すぎたり,高すぎたりする場合があります。そんな場合でも家賃の変更が全く認められないとすればこれは不都合です。
   

■そのような場合に,賃貸人と賃借人が円満に合意をして変更することはもちろん可能です。
また,いずれかが応じない場合にも,調停を申し立て裁判所に間に入ってもらい話し合って変更をすることが出来ますし,それでも一方が応じない場合には,適切な金額を裁判所に決めてもらうことができます。
   

■いずれにしても,大家から家賃の増額を求められた,あるいは調停を起こされたなどのことがありましたら,遠慮なくご相談ください。

2017年8月29日

◆夫婦関係修復のために弁護士は役に立つか (弁護士小林徹也)


■ 言うまでもなく,夫婦関係について弁護士のところに相談に来られる方は,「離婚したいけれどどうすればよいか」という内容がほとんどです。
 しかし,もちろん中には「配偶者から離婚を求められているが自分は修復したい。どうすればよいか」という相談もあります。

  
■ 正直申し上げて,弁護士というのは,離婚する場合に生じる親権・財産分与・慰謝料等の種々の問題について解決する手段を提案することはできても,破綻した(あるいは破綻しかかっている)夫婦の関係を修復する「法的解決方法」を持ち合わせていません。
 もちろん,形式的に調停を申し立てて,調停に同行させていただく,というレベルでのお手伝いはできますが,一度離れてしまった相手方の気持ちをこちらに取り戻す,というような「天使」のような役割は到底果たせません。

  
■ 他方で,弁護士は,多かれ少なかれ「説得」の技術を持ち合わせています。
 「気持ち」を変えることはできなくとも,(嫌な言い方ですが)離婚に伴う社会的・経済的な不利益を主張することにより,相手方の「離婚したい」という「決意」を鈍らせることはできるかもしれません。
 そして,仮に,一時的に「決意」が鈍り,時間をかせぐことができれば,「気持ち」の変化をもたらすチャンスは増えるように思います。

  
■ 私自身,よく「関係を修復したい」というご相談を受けることがあります。そのような場合には,「法的専門を離れたあくまで一個人の意見」として,過去の様々な事例から破綻した夫婦の問題点などを(もちろん守秘義務に反しない範囲で抽象化してですが),お話し,修復に向けた話し合いの「ポイント」を助言することはあります。
 このような場合,ほとんどは相談だけに終わることが多いので,どこまで役に立っているが検証は困難ですが,何も聞かないよりましかもしれません。

2017年1月6日

◆カルテの証拠保全について(弁護士小林徹也)


■ 医療過誤訴訟にカルテは不可欠
 医療過誤など医療に関する責任追及には,当該患者の医療記録(カルテ)の検討が不可欠となります。
 医療過誤訴訟を提起する場合,裁判所より必ずカルテの提出を求められます。
 カルテについては,患者(あるいは遺族)が,病院に対して任意に開示を求めることができます。原則として,病院はこれを拒否することはできません。
   

■ カルテの収集方法
 具体的な収集方法ですが,病院に申し込むとコピーをして渡してくれるところもあります。この場合,実費として,カルテ1枚につきコピー代10~30円を徴収されることが多いようです。
 また,これも病院によりますが,カルテの開示だけを受けて,それを当該病院の一室で自分でコピーしなければならない場合もあります。
 コピー機がないような病院で,しかもカルテ自体の貸出を認めない場合には,デジタルカメラを持って行き,その場で撮影する場合もあります。
 いずれにしても病院によって対応が異なりますので,事前によく確認してください。
   

■ カルテの証拠保全について
 カルテが開示前に改ざんされることを危惧して,証拠保全という手続を行うことがあります。
 これは,裁判所に申し立てて,日程を調整し,事前に病院に知らせることなく,ある日突然に,裁判官,書記官,代理人らで当該病院を訪れ,カルテを開示させるものです。
 基本的に病院はこれを拒否できませんので,事前の改ざんの危険性が減少します。
 但し,申立さえすれば簡単に認められるというものでもなく,裁判所に対し,ある程度具体的に,医療過誤等の内容を書面で説明する必要があります。
 このような作業は,専門家である弁護士に依頼したほうがスムーズです。
   

■ いわゆる電子カルテについて
 かつては,手書きのカルテが多く,証拠保全をする場合でも,改ざんの痕跡がないかを,現場でかなり細かくチェックする必要がありました。
 しかし,最近はいわゆる電子カルテが増え,改ざんの危険性はかなり減少したように思います。
 大きな病院にある一般的な電子カルテのシステムでは,一度入力したものは,書き直しても原則として消えません(通常,当該箇所に線が引かれ訂正したことが分かるようになっています)。
 また,入力する際には,職員個々人が持つID番号を入力しなければならないことになっており,誰が入力・訂正したかも明らかになります。
 確かに,このシステム自体を不正に書き換えるということも理論的には考えられないことはないですが,そのようなことをするためには,システム自体を作成した業者の協力が必要となる可能性が高く,そのようなリスクを冒す業者がいる可能性は低いのではないでしょうか。
 従って,電子カルテ自体については証拠保全の必要性はそれほど高くないようにも思います。
   

■ 手書きの書類について
 ただ,電子カルテが導入されている病院でも,患者本人の同意書などは手書きされたものをスキャナーで読み込んでいる場合が多く,その同意書自体に疑義があるような場合には,その原本を確認する必要があります。
 この意味では,電子カルテのシステムを導入している病院においても,証拠保全の必要性はあると思います。
   

■ お気軽にご相談を
 いずれにしても,どの方法を採るかはケースによって異なります。お気軽にご相談ください。
 但し,入手したカルテを元に損害賠償請求を求める場合には,さらに専門的な検討が必要となり,その場合には協力していただける医師の存在が不可欠となります。
   

2016年11月22日

◆夫の「モラハラ」と離婚②(弁護士小林徹也)


■以前に別項で,夫のモラルハラスメントについて触れましたが,少し前に私が扱った事件で,「モラハラ」を理由とした比較的高額の慰謝料が認められました。
  

■この事件でも,夫は,自分が絶対正しいと思いこんでいて,その考えを曲げようとしませんでした。そして,一度口論になると,長期間,妻を無視するのです。
 妻は,長年,なぜこのような仕打ちを受けるのか,自分が間違っているのか,と悩み続けました。
 しかし,ある公的な相談窓口において,夫の行為が典型的な「モラハラ」であることを知るに至り,離婚を決意し当職に相談に来られました。
  

■訴訟においても,夫は,決して自分の主張を曲げなかったことから長期化しましたが,慰謝料自体が減額されることはありませんでした。
 夫の不貞という事情もない中では,かなり高額な慰謝料であったと思います。
 裁判所にも,単なる「性格の不一致」とは異なる,一方配偶者による「モラハラ」が違法なものであるという理解が徐々にですが広まってきているのではないでしょうか。
  

■もし夫婦関係で悩まれており離婚を考えているものの,「自分にも問題があるのでは」などと思いこんでおられる方がおられましたら,一度ご相談ください。
 弁護士である以上,法的な解決手段しかご提案できませんが,一定の範囲で同様の事例をご紹介しアドバイスさせていただきます。
   

2016年8月3日

◆離婚事件のご相談を聞くにあたって心がけていること(弁護士小林徹也)


■皆さんから離婚事件の相談を受けるにあたって,いつも心がけていることがあります。それは,①法律家としてのアドバイスと,②法律家を離れた個人としてのアドバイスを,相談者に分かるように分けて説明することです。
   

■弁護士としての意見
 これは,すでに離婚を決めておられる方が,配偶者や,あるいは不貞相手に対し,どのような法的手段を採ることができるか,を説明することです。
 婚姻中であれば婚姻費用の請求ができること,不貞相手に対しては慰謝料の請求ができること,過去の事例に照らしてどれくらいの金額が請求できるか,などです。
   

■個人としてのアドバイス
 ただ,相談に来られる方(女性が多いですが)が,きちんと気持ちを整理して方針を確定させていることはそれほど多くありません。
 当然のことながら,長い時間をかけて,全人格的な結びつきを目指した婚姻生活を終わらせようかと考えているのですから,単純にお金の問題だけに置き換えることは困難なことが多いのです。
 そのような場合に,安易に「それは離婚したほうがよいですよ」とか,「離婚したら経済的に大変ですよ」とか言うことはできません。
 ただ,相談者は,弁護士のことを「専門家」と見ておられることが多いですから,そのような意見ですら「従ったほうがよいのかも」と思いがちです。
   

■弁護士は法律の専門家に過ぎません。
 私たち弁護士は,法律については国家的な資格に基礎付けられた専門的な知識を持っていますが,それ以外のことについては基本的に素人なのです。
 もちろん,同種の事件を数多く扱うことによって,法律以外の知識が蓄積されることもありますが,多くの場合,弁護士資格のように,そのことを客観的に証明することはできません。
   
 
■そこで,私は離婚の相談を受けた場合には,「あなたが離婚しようと決めた時にはこのような法的手段があります。ただ,離婚したほうがよいかどうか,不貞相手に請求するかどうかについては,お気持ちの問題もあり,弁護士としてはアドバイスすることはできません。ただ,あくまで私個人の意見として申し上げるなら~」として,法的なアドバイスかどうかをきちんと分けて説明するようにしています。
   

■もちろん,そもそも弁護士がそのような個人としてのアドバイスをすべきではない,という意見もあるでしょう。
 しかし,現実に,離婚問題で憔悴しておられる相談者を目の前にすると,例えば,「どんな複雑に見える離婚事件も必ず終わりましたよ」とか,「とりあえず今すぐに決めずに,しばらく何も考えずにゆっくりされてはどうですか」などと言うことがあります。
   

■いずれにしても,弁護士にとっては多くの事件の一つであったとしても,相談に来られる方にとっては,人生の一大事である,ということを常に意識しながら,ご相談をお聞きするように心がけています。
   

2014年5月9日

◆憲法講師の「出前」を引き受けます(弁護士小林徹也)


■ 今,日本国憲法の議論がマスコミをにぎわせています。

「解釈改憲」,「集団的自衛権」,「秘密保全法」,「残業規制の撤廃」など,多くの重要な話題が,憲法との関連で語られています。

  

■ 憲法って何?

 言うまでもなく,今の憲法を批判する安倍さんが首相でいられるのも,憲法で定められた仕組みにより選ばれたからです。

 では,その憲法とは何なのでしょう。

 そもそも何を目的として作られ,それぞれの条文は何を目的に定められているのでしょうか。

 毎日の新聞を読んでいても,このように,全体として,憲法を理解するのは難しいかもしれません。

  

■ 私たち弁護士は,司法試験を通るために,嫌でも憲法を勉強しなければなりませんでした。

 そこでは,現実の社会に起きうる様々な問題について,憲法のどのような原則が問題となるのか,ということを体系的に論じることを学びました。

 「餅は餅屋」と言いますが,大工をしている方がのこぎりの使い方に長けているように,調理師の方がフライパンの使い方に長けているように,美容師の方がはさみの使い方に長けているように,私たち弁護士も,少しは憲法の使い方に長けていると思います。

 特に私は,中国残留孤児国家賠償請求訴訟,大阪空襲訴訟など,憲法が直接の争点となる訴訟に関わってきました。

  

■ 私自身は,日本国憲法は,一人一人の個人を大事にすることを目的として,第二次世界大戦を含む人類の長年の歴史の中から経験で培われた原則を,体系的にまとめたものだと考えています。

 従って,憲法を理解するためには,まずは憲法が何を目的にしているのかを知る必要があります。

 ここがはっきりしないと,何のために議論をしているのかわからなくなってしまいます。

 次に,憲法の背景となっている,歴史的な事実をある程度知る必要があります。

 憲法に書かれているから守らなければならないのではなくて,守らなければならないことが憲法に書かれているのです。

   

■ ただ,文章だけではなかなかわかりにくいと思います。

 そこで,ご希望があれば,無料で憲法の出張講師を引き受けさせていただきたいと思います(人数や時間に制限はありますが,当事務所にお越しいただいてもかまいません)。

 数人の方が対象でも構いませんし,多くてももちろん構いません。小学生の方でも,ご高齢の方でも構いませんし,短時間でも長時間でもできるだけ対応します。憲法を守るべき,と考えている人だけでなく,憲法は変えたほうがよい,と考えている方からの依頼でも構いません。

 遠慮なく御連絡ください。

2014年4月28日

◆裁判官でも揺れるセクハラの判断(弁護士小林徹也)


■ これまで何件もセクシャル・ハラスメントが問題となる事件を扱ってきました。

 犯罪になりかねない極端な事案は別として,現実には,セクシャル・ハラスメントかどうかの判断は難しいもので,裁判官によっても判断が揺れるように思います。

 

■ 依頼者のプライバシーの問題がありますので詳細は避けますが,かなり以前に,次のような事案を扱ったことがあります。

 社員が20名くらいの小さな出版会社で,入社したばかりの女性社員に対し,社長が,歓迎会と称してバーに誘いました。

 1対1で社長と出かけるのは気が進みませんでしたが,希望に溢れて入社したその女性は,社長の誘いを断ることができませんでした。

 バーでは,酔ってきた社長が肩に手を回してきたり,「彼氏はいるの?」などと聞いてくるようになりました。他方で,そのような話や態度の合間に仕事の話しもすることから,女性は,なかなか退席できませんでした。そのような状況の中,さらに酒に酔った社長は,調子にのって,女性にキスを求めてきたのです。

 女性は嫌でたまりませんでしたが,入社したばかりで社長の指示を断ることが出来ず,軽くキスをしてしまいました。

 帰宅した女性は,大きな後悔と嫌悪感にさいなまれ,これからは仕事に専念し,社長の誘いがあっても必ず断ることを決心し,翌日からの仕事に臨みました。

 社長は翌日からも,調子に乗って飲みに誘ったりしてきましたが,女性はこれを断り続けました。すると,社長は態度を急変させ,「仕事がきちんとできない」などと難癖をつけ,入社から僅か1ヶ月程度で女性を退職に追い込んだのです。

 

■ 女性は,意を決して訴訟を提起しました。

 ところが,一審では,「キスは女性が自分の意思で応じたのだからセクハラではない」という理由で敗訴したのです。女性は大変傷つきましたが,どうしても納得がいかず,控訴しました。

 控訴審は年配の3名の男性裁判官が担当しました。尋問においても,「嫌なら断れたのではないの?」などと聞いてきたことから,私は,これでは難しいかも,と思ったのですが,驚いたことに,和解の席で,裁判官は「キスをさせたことがセクシャル・ハラスメントであったことを前提に和解を勧告します」と述べたのです。その結果,相手に相当の慰謝料を支払わせることができました。

 

■ このように,指揮監督関係がある中でのセクシャル・ハラスメントについては,裁判官によって対応が違うことがよくあるように思います。

 また,必ずしも女性の裁判官が理解してくれるというわけでもないように思います。

 「嫌なら断れるでしょう」

 このように述べる女性裁判官に会ったことがあります。

 しかし,男性の私が言うのも変ですが,働かなければならない女性にとって,指揮監督関係に基づく心理的な圧力は,(想像するしかないのですが)大変大きなものであると思います。多くの女性労働者が,「いやだな」と思っても,笑顔で上司の言動に対応せざるを得ない経験をお持ちだと思います。

 従って,事件処理においても,単純に,こちらの受けた被害を並べるだけではなく,「なぜ断ることが出来なかったのか」という客観的な事情を工夫して主張し,裁判所に理解してもらう必要があります。

 

■ いずれしても,そのような被害にあった依頼者に対しては,私自身が男性であって,限界があることをいつも肝に銘じながらも,出来るだけ依頼者の心情を理解するように努めたいと思っています。

2012年11月8日

◆裁判員裁判・近畿圏初の無罪判決(弁護士小林徹也)


平成23年1月、幸いにも、大阪地方裁判所において、全国で4番目、近畿圏では初となる、裁判員裁判での無罪判決を得ることができました。

これは、覚せい剤密輸事件の首謀者とされた被告人に関するものです。被告人に加え6人もの証人について、4日間も尋問を行いました。

大変な労力をかけましたが、無罪判決をとった時の喜びはひとしおでした。

客観的な証拠が少ないなか、証人尋問が勝負の事件であり、裁判員を説得するために分かりやすい尋問を心がけたのがよかったのではないかと思います。

 

2012年11月8日

◆裁判員裁判を経験しました(弁護士小林徹也)


平成22年2月上旬の4日間、別の事務所の弁護士と2人で裁判員裁判を経験しました。
強盗事件と強盗致傷事件の2件を犯したとして起訴された被告人に関するものでした。
ご存じのとおり、裁判員に法廷に来てもらって審理をするまでに、裁判官・検察官・弁護人の3者で、審理の整理などを目的として、何度も打ち合わせを行っています。

従って、法廷での公判までにもかなりな準備があるのですが、今回は、法廷での公判に限った印象を。
初日午前は、抽選で裁判所に来てもらった39名の裁判員候補者の中から、6名の裁判員と2名の補充裁判員を選任する手続があります。
自ら辞退を希望される人などについてその可否を判断したうえで、検察官・弁護人とも理由なしで5名まで回避することができます。
私たち弁護人は、事前には特に回避する予定はなかったのですが、出頭した方が女性にばかり偏っていたこともあり、何名か女性の方を回避しました。

 

公判では、思っていた以上に、裁判員が証人や被告人に質問をしていました。
また、その質問も裁判官以上に的確なものもあり、驚きました。
1日目が5時前に終わってからも、被告人の方と翌日の打ち合わせを行うために、拘置所に接見に行き、また2日目の夜は、翌日の弁論(それまでの証人や被告人の証言を踏まえて、弁護人の主張をまとめたもの。

これを裁判所で口頭で読み上げる)のための準備、そして、3日目の午前に最後の尋問が終わってから、昼食をゆっくり取る余裕もなく、パンをほおばりながら、パソコンに向かい、印刷するために事務所に戻る余裕もないことから、裁判所で弁論を印刷してもらい、1時30分からの法廷に間に合わせる、とてんてこ舞いでした。
午後になんとか弁論を終えて、3時前には一応検察官・弁護人の仕事は終了、そして翌日午後4時には判決。
検察官の求刑よりも大幅に低い刑でしたが、争っていた様々な事実については、悉く退けられました。

 

無罪を争うほどの事件ではありませんでしたが、やはり、3日間の証人・被告人の証言をじっくり検討したうえで、これらをまとめて弁護人の意見を裁判官・裁判員に伝えるためには、あまりにも時間不足でした。
また、3日目の午後の2時間程度と4日目の午前2時間程度で結論を決めなければならない裁判員にとっても、明らかに時間不足であったろうと思います。

裁判所は、まだまだ裁判員を「お客さま」扱いです。裁判員の負担を軽減させることが至上命令になっているように思います。しかし、この制度を導入した以上、裁判員として裁判に参加することは、国民が司法を監視するための「権利」です。
国民全体に、「権利を行使するのだから少々時間を取られるのは当たり前」という意識が根付かない限り、この制度は成功とは言えないのではないでしょうか。
これからも、この制度の行く末を見守っていきたいと思います。

 

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