2020年1月17日

◆高齢者の財産管理など-ホームロイヤーという考え方があります(弁護士 佐久間ひろみ)


■ 最近,高齢の方から,身寄りがないので今後の財産管理や死後の手続きをどうすればよいか不安であるとの相談を受けることがあります。超高齢化社会を迎え,親族に迷惑をかけずに老後を送りたいという方が増えているのではないかと感じます。

  

■ しかし,このような高齢者を狙ったトラブルは数多く存在します。還付金詐欺,リフォーム詐欺,最近ニュースになったかんぽ生命保険の契約も,独居の高齢者が被害にあっています。これらのトラブルの原因は,高齢者の方が,誰にも相談せずに一人で判断をして契約をしてしまうところにあります。

  
■ そこで,ホームロイヤーという考え方があります。高齢者の方が,財産管理能力が落ちてきたときに備えて,弁護士と任意後見契約と見守り契約をする方法です。この場合,何か高額な契約をするときも,弁護士に相談してからにしようという意識になります。

  
■ 私が受任した件でも,高齢の方で身寄りもないことから,将来に備えて任意後見契約と見守り契約(3カ月に1回の訪問)を結んだ例がありました。この方は,不動産もあることから,どのような遺言書を作成するべきかといった相談もしながら,面談を続けています。

  
■ トラブルが起こってから,いきなり見ず知らずの弁護士に相談するというのではなく,気心の知れた弁護士と将来の財産管理の相談をすることもできます。ぜひ一度ご相談ください。

2019年12月5日

◆保険金請求事件で高裁勝訴~免責約款該当性を認めず~(弁護士 平山敏也)


1 損保会社(以下では「A社」といいます)を相手にした裁判で、1審に続き高裁でも勝訴しました(大阪高裁判決・確定)。
事案は以下のようなものです。
依頼者のお父さん(以下では「X氏」といいます)は、小型移動式クレーン(ユニック)車を操作中に、クレーン車が倒れてしまうという事故により亡くなってしまいました。
亡くなったX氏は損害保険に加入していたので、依頼者が保険金を請求したところ、A社に支払いを拒まれたのです。

  
2 A社が保険金の支払いを拒んだ理由は、保険約款の中に免責事由が定められており、「法令に定められた運転資格を持たないで自動車等(自動車または原動機付自転車)を運転している間」の事故について保険会社は免責される(保険金が支払われない)旨が定められており、X氏の事故はそれにあたるから、というものでした。

  
 この支払い拒絶には2つの問題(論点)があります。

  
(1)1つめは、実際にはX氏は小型移動式クレーンの資格を有していたと思われるのですが、「資格証や資格を取得した記録などが見つからなかった」という理由で、無資格扱いされ、免責事由にあたるとされてしまったことです。
このような保険の免責事由について裁判で争われた場合、保険会社の方がその免責事由に該当する事実を証明しなければいけません。なので「資格を持っていたのか持っていなかったのかよく分からない」という場合には保険金を支払わなければならないことになります。

  
(2)もう1つは、約款の解釈の問題です。
そもそも、車から降りて、止まっている車に搭載されたクレーンを操作していた時の事故が「自動車等を運転している間」の事故にあたると言えるのでしょうか。もちろんクレーンの操作も「運転」と言えなくはないでしょうが、「自動車等を運転している」という言葉からイメージされる行為とは随分違う印象を受けます。
しかも、別の側面として、小型移動式クレーンの資格は比較的容易に取得できて、無資格操作の際の罰則も自動車の無免許運転の場合よりも軽微であるという事実もあります。
そう考えると、小型移動式クレーンの操作を自動車の運転と同視することは出来ないように思います。

  
 依頼者は、A社の保険金不払いに納得できず、そんぽADRセンター(損害保険についての仲裁のための機関)に申立てをしましたが、和解はできませんでした(ここで示された和解案の内容は公開を禁止されていますので、ここでは報告できません)。
そこで、当職と中峯将文弁護士が受任して、保険金請求訴訟を提起したのです。

  
5 裁判では、主として上記の第1点について争われました。

  
(1)小型移動式クレーンの資格の記録については、建前としては指定保存交付機関(厚労省から委託を受けた民間の機関)もしくは現在教習を実施している機関に保存されている形になっています。
そこで、A社は「X氏が資格を有していなかった」と主張して、指定保存交付機関に加えて様々な教習機関に照会をして、「X氏の資格に関する記録が見当たらない」との膨大な回答書を裁判に提出してきました。

  
(2)しかし、小型移動式クレーンの教習を行なう機関は多数あり、既に廃業している機関も多々存在します。それらの機関が資格に関する記録をきちんと管理していて、廃業時に指定保存交付機関(それが出来る前は労働局)にきちんと引継ぎをしているのかについては、大いに疑問です。実際、当職らが調査した範囲でも、引継もなされないまま廃業しているケースが存在することが明らかになりました。

  
(3)もちろん、相手方の主張をつぶすだけではなく、積極的な立証活動も行ないました。当職らは、①X氏が長きに渡って小型移動式クレーンが必要な仕事に従事していたこと、②実際に操作していた場面でも上手に操作していたのを家族が見ていること、③X氏がコンプライアンスにも厳しい人物であったこと、④事件当日は別の方法で仕事をすることも可能だったのにあえて小型移動式クレーンを使用したこと、などを示して、X氏が実際に資格を取得していた可能性が高いことを明らかにしました。
  

 判決は、1審、2審とも依頼者の請求額全額を認める完全勝利判決でした。

  
(1)その理由としては、1番目の論点について、「『X氏が資格を取得していなかった』とは認められず、免責事由にあたるとはいえない」ということでした。
これは、弱い立場の側に寄り添いつつ、事案の真相を考え抜いて出された素晴らしい判決であったと思います。

  
(2)もっとも、2番目の論点(約款の解釈の問題)については1審、2審ともに、小型移動式クレーンの操作が「自動車等の運転」にあたること、従って小型移動式クレーンの資格を持たずに操作していたときの事故であれば保険金が支払われないことを認めてしまっています。これは不当な判断と思われます。
実はこの点には先例(東京地裁平成9年3月13日判決)があり、そこでも同様の判断がなされていました。今回の判決はその判断に引きずられてしまったのかもしれません。
ただ、今回の判決の当該判示は、保険会社側敗訴判決における理由中の判断に過ぎません。判決の結論に直結していない、いわば傍論に近い性格のものです。ですから裁判例としての価値は高くないと思われます。次にこの論点が問題になったときには、別の判断がなされる可能性もあるのではないでしょうか。

  
 それにしても考えさせられるのは、A社の態度です。
言うまでもなく、保険会社は多くの保険加入者から保険料を受け取って、それを保険金支払いの原資としているのですから、どのような請求であっても保険金を支払えばいいというわけでありません。例えば保険金詐欺などの不正請求には毅然とした対応が必要です。ですから、本来支払うべきでない保険金を支払わないことは保険会社として当然の行為でしょう。
そのように考えるならば、A社が当初、依頼者による保険金請求に対して支払いを拒んだことについては理解できないわけでもありません。
しかし、A社はその後、ADRで和解を拒み、訴訟の1審で裁判官から和解を勧められてこれを拒み、1審判決が出ても控訴し、高裁で裁判官から金額を示して和解案が出されてもこれを拒んで、今回の判決に至ったのです。おそらく安くない弁護士費用を使ってのことです。そこまでして支払いを拒まなければならないものでしょうか。
亡くなったX氏は、A社と契約して、亡くなるまで保険料を支払ってきた、いわば「お客さん」です。A社にとってのお客さんが亡くなって、その遺族が悲しみに耐えながら保険金の請求をしているのです。もちろん詐欺などの故意的不正請求を疑う余地は1ミリもありません。そうであれば、第三者の意見を受け入れて保険金を支払うことに、どのようなハードルが存在したというのでしょうか。
A社には企業の社会的責任について真剣に考えていただきたいと切に願います。
  
  

以上

2019年11月13日

◆セクシャルハラスメントにおける男性の「言い分」と変化しつつある裁判所(弁護士小林徹也)


■よくセクシャルハラスメントの相談を受けます。
これまでに,上司による職場でのセクハラ発言から,上司からの執拗なデートや交際の誘い,さらには犯罪まがいのものまで,様々な事例を扱いました。
どちらかというと示談で終了することが多いのですが,訴訟に発展する場合もあります。
今回は,そのような事案において,よくある男性側の「言い分」についてお話ししたいと思います。
   
   
■男性の「言い分」-嫌がっているように見えなかった
セクシャルハラスメントにおいてよくある男性の「言い分」として,例えば,性的な言動について,「笑って聞き流していたので嫌がっているように見えなかった。嫌だと言ってくれれば止めた」というものがあります。
しかし,まさにここにセクシャルハラスメントの本質があります。
使用者と労働者,あるいは上司と部下の関係にある場合,使用者や上司からの性的な発言に対し,仮に不快に思っていても,それを明確に意思表示できることは少ないのです。男性側はこの点が実感としてなかなか理解し難いのです。
だからこそ,セクシャルハラスメントという類型を特別に検討する必要があるのだと思います。
社会的にも,このようなセクシャルハラスメントの本質が(不十分ながらも),認識されつつあり,「相手がいやだと思わなかった」,「認識の違いだ」などという「言い訳」は通らなくなってきています。
特に,一定のコンプライアンスが確立している企業では,そのような認識を持ち得ないこと自体企業人として不適格の烙印を押されかねません。
かくいう私も,事件を通じて理解しようと努めていますが,本当に実感できているのか自問自答する毎日です。
   
   
■変化しつつある裁判所の対応
同様に,セクシャルハラスメントに関する裁判所の対応も変わってきたように思います。
10年も前は,女性裁判官がセクハラを受けたと主張する被害者の女性に対し「嫌ならなぜ嫌と言わなかったのですか」などと平気で質問してくるようなこともありました。
しかし,最近では,基本的に,「労働者,特に女性は上司に対し,嫌悪感をはっきりとは表現できないものだ」という認識が,(徐々にですが)理解されてきているような気がします。
すべての裁判官が,とは言いませんが,訴訟となると比較的丁寧に当事者,特に被害者の話を聞いて,示談に向けて加害者を説得することが多いように思います。
   
   
■いずれにしても,セクシャルハラスメントを受けた(あるいは行ったとされて賠償請求を受けている)などのご相談がありましたら遠慮なく御連絡ください。
(特に男性の方には)必ずしも,都合のよい方針は示せないかもしれませんが,法的に適切な方向性は示させていただきます。

2019年10月30日

◆ご相談の際の注意点-「原本」には何も記載しないで!(弁護士小林徹也)


■私のみならず,一般に弁護士に相談する場合のちょっとした注意点についてお話ししたいと思います。
   

■他人とのトラブルが生じた場合に,その根拠(分かりやすく言えば証拠となるものです)となる文書があることも多いでしょう。
典型的なものは,お金の貸し借り(金銭消費貸借契約)における契約書や売買の契約書などです。
あるいは,医療に関するトラブルでのカルテや診断書などもこれに当たるでしょう。
また,夫婦のトラブルについて,妻がつけていた日記やメモなども大事な根拠となり得ます。
   

■これらは通常,事案の理解や解決に役立つことが多いので,是非お持ちいただきたいのですが,注意していただきたいのは,これらの文書そのもの(「原本」と呼びます)に,説明のために手書きで書き込むことは避けていただきたいのです。
というのは,「原本」は通常,まさにその時に作成されたそのままのものであることで意義があり,証拠となりうるのです。 
相談に来られる方が,「そのままでは分かりにくいだろう」という「親切心」でいろいろ説明を書き入れたりすることがあるのですが,これはかえってマイナスになることがあります。
例えば,妻がつけていた夫の言動に関するメモは,まさにその時の気持ちのままに記載されているからこそ,例えば慰謝料に関する証拠として貴重なのです。
分かりにくいからといっていろいろ説明を加えると,分かりやすさは増すかもしれませんが,証拠としての「生々しさ」が失われかねません。
せっかくの,証拠の価値が下がってしまうこともあるのです。
また,いざこれを証拠として裁判などに提出する際,裁判官としては,どの記載が当時書かれたもので,どの記載が説明のために書き入れたものが分かりにくく,従って,弁護士が,「この部分は当時のもの,この部分は今回説明のために書き入れたもの」というようなことを,わざわざ文書で説明しなければならず,かえって分かりにくい証拠となりかねません。
   

■もし,説明が必要であると思われた場合は,原本には手を加えず,コピーを取り(最近はコンビニでもできますね),そのコピーに書き込んでください。
弁護士からのお願いです。

2019年9月11日

◆離婚調停は弁護士をつけなくてもできますか(弁護士小林徹也)


■離婚について当事者間で話しがつかない場合には,急に白黒を裁判所に決めてもらう手続である訴訟を起こすことは出来ず,原則として,家庭裁判所に「調停」(裁判所を間に立てた話し合いの場)を申し立てる必要があります(調停前置主義)。
では,この調停とはどのような形で進められるのでしょうか。
   
  
■調停を申し立てると,裁判所の混み具合や,申立の時期にもよりますが,だいたい1ヶ月程度くらいで「期日」が決められ,原則として両者ともに,その日に来るように通知が来ます(もちろん,DVなどの事情があり,相手と別の日にしてほしいなどの事情がある場合には,その旨希望すれば配慮してもらえます)。
   
  
■期日に出頭すると,まずは申し立てたほうから個室で調停委員が話しを聞きます(原則として調停委員と申立人だけです。また,当事者が顔を合わせることはなく,相手は別の部屋で待たされます)。
調停委員は,通常,初老の男女がペアとなっています。また,弁護士などの法律家ではない場合が多いです。
   
  
■調停の手続には必ずしも弁護士をつけなくても構いません(訴訟もそうですが,訴訟の場合は書面の書き方などにかなり規則や専門性があるので弁護士をつけるべきです)。
実際,弁護士をつけないまま調停をしておられる方はたくさんいます。
ただ,私が見聞きする範囲では,弁護士がついていないと,以下のような問題点があるように思います。
   
  
■もちろん調停委員にもよりますが,概して,調停委員は,説得しやすい方に譲歩を迫る場合が多いように思います。
そして,弁護士がついていなければ,「調停委員が言う以上やむを得ないのかも」と考えて受け入れてしまいがちです。
十分な知識がないまま,不利な内容で調停が成立している場合をよく見ます。
   
  
■また,最終的な解決をしないまま中途半端な形で終わらせしまい,後に紛争が再燃する場合があります。
よくあるのは以下のようなケースです。
離婚をしたうえで,妻が子を引き取り,夫が一定の養育費を支払う内容で調停が成立しました。夫としては,収入の範囲でなんとか支払える金額を決めたつもりでした。
ところが,調停が成立してすぐに妻が「慰謝料を支払え」と訴訟を起こしてきました。夫は,調停ですべてが終わったつもりでいたのに寝耳に水です。
このような場合,もし夫側に弁護士がついていたら,調停が成立する際に,「ここに定めた以外には今後互いに何も請求しない」(清算条項)という条項を入れることを求めます。
妻がもし慰謝料を請求するつもりなら,そのような条項を入れることは認めませんから,慰謝料についても話し合いが続くことになります。夫としては,慰謝料の支払いも念頭において,養育費の話し合いもできることになります。
ところが,上の例では,調停委員は,妻に「慰謝料については後で訴訟を起こせばよい」と助言しながら,夫にそのことを伝えていなかったのです。
したがって,あえて清算条項を入れていませんでした。もちろん,法的には問題があるわけではありません。しかし,「これですべて片が付いた」と夫が考えるのも無理からぬように思います。
このような例を,私は何件か経験しています(後に,上記のような例の妻,あるいは夫から相談を受けたものです)。
   
  
■従って,よほど問題がない場合以外は,調停においても弁護士をつけたほうが無難であると思います。せめて,成立前にその内容で成立させてよいか,弁護士に相談すべきです。
費用については,法テラスなどを利用できますので,遠慮なくご相談ください。

2019年9月4日

◆医療関係の御相談には出来ればカルテ等をお持ちください(弁護士小林徹也)


■治療や手術などにおいて医師がミスをしたのではないか,などというご相談をよく受けます。
別項『カルテの証拠保全について』でも説明しましたが,仮に訴訟となった場合には,裁判所は必ずカルテの提出を求めます。
従って,単にご相談を受ける場合でも,出来れば事前にカルテを取得していただくほうがご相談に乗りやすいのです。
   

■例えば,口頭で,「歯医者に行ったところ,不要な検査をされ,そのために怪我をした」という相談をされた場合,具体的に何の治療のために,どのような内容の検査をされたのか,が事前に把握できませんと,弁護士としても請求が難しいのです。
「不要な検査をされたために怪我をしたので賠償を求めます」などといった抽象的な請求を相手方にしたところで,医師は,当然「~ということで来院されたので,~という必要な検査を行った。その際,怪我などはさせていない」という回答をしてくる可能性が高いのです。
従って,このような請求をする場合には,どのような内容の検査であったのかを事前に確認し,これがどのような場合に必要とされるものかを調査したうえで,請求を行う必要があります。
   

■従って,医療に関するご相談をご希望の場合には,出来るだけカルテをお取り寄せいただいたうえでお越しいただくか,少なくとも,診断書等をお持ちくださるようお願い致します。
カルテの取得方法については,前述の別項をご覧ください。
   

2019年8月27日

◆夫の「モラハラ」と離婚(弁護士小林徹也)


■最近,「モラハラ」という言葉を耳にすることが多くなりました。
これは,「モラル・ハラスメント」の略であり,「言葉や態度で巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力」と定義されています。
この言葉や記事を見て,私が思い浮かべるのは,私が過去に扱ったいくつかの離婚事件における夫です。
私が扱った離婚事件によく見られる夫は,このような「モラハラ」の常習者であることが多かったのです。
   
  
■このような夫の特徴として,まず,自分が絶対正しいと思いこんでいることが挙げられます。
妻が少しでも反論しようものなら,1時間も2時間も延々と,妻が疲れて「その通りです」と認めるまで自分の意見を主張し続けます(ほとんど徹夜で話しを聞かされた,という依頼者もおられました)。
このようなことが何度も,何年も続くものですから,妻はそのうち,「マインドコントロール」されてしまい,夫の言っていることは常に正しく,自分が叱られるのが当然だと思いこむようになってしまいます。
家庭では,夫が主導権を握り,妻は夫の機嫌ばかりを伺うようになっていきます。
夫は,妻の行動にいちいち文句をつけたり,舌打ちをしたりします。また,機嫌の悪い時は無視を決め込みます。
これに対して,妻は,「自分が悪い」と思いこまされて,限界に至るまでそのような生活を続けるのです。妻は,とにかく一日問題なく過ごせればそれでいい,という心情になってしまいます。
依頼者の中には,夜寝る時,「明日は無事に過ごせるだろうか」,「このまま目が覚めなければいいのに」などと毎晩思っていたという方もおられました。
   
  
■そして,限界を超えてどうにも堪えられなくなり,離婚を考えて弁護士のところに相談に来て,「そのような夫の態度は異常ですよ」と言われてはじめて夫の態度に疑問を持ち始めます。
もちろん,長年の「マインドコントロール」は簡単には解けません。
別居して,調停を起こして打ち合わせを重ねる中で徐々に,ようやく「夫はおかしかった」ということを実感していかれます。
   
  
■他方で,夫は,それまで従順だった妻が,はっきりと主張や反論するようになることから「弁護士が言わせているに違いない」と思いこむことがよくあります。
そこでよくある夫からの要望は,「直接妻と話させてほしい。直接に話せば理解してもらえる」ということです。
そのような場合,私は,依頼者とよく相談したうえで,了解を得られれば,調停で直接面談させるようにしています。
そこで,夫は,「マインドコントロール」が解けて自立した妻に愕然とするのです。
   
  
■このような男性は,概して世間体はよく,会社などでは好印象を持たれているようです。
従って,いざ調停や裁判になるとあまり無理は言いません。
よく依頼者である妻が,「刃向かったら何をされるか分かりません」と怯えておられることがあるのですが,少なくとも私が扱った事件では,事前にどんなに電話などで威勢のいいことを言っていても,調停や裁判で無茶なことをした男性はいません。
   
  
■もし夫婦関係で悩まれており,離婚を考えているものの,「本当に自分は間違っているのだろうか」あるいは「夫には刃向かえない」と思いこんでおられる方がおられましたら,一度ご相談ください。多くの場合,あなたが正しいのです。

2019年8月21日

◆面会交流で「苦しむ」子どもたち(弁護士小林徹也)


■面会交流で紛争になる事例が増えているように思います。
面会交流をどのように捉えるべきか,親の権利なのか,子ども自身の権利なのか,いろいろな意見があります。
そして,近年は,これを子どもに重点を置く権利と捉える傾向にあります。
ただ,大量の事例を処理する必要性からやむを得ないとは思いますが,裁判所は,良くも悪くも,面会交流を杓子定規に捉えているように感じます。
例えば,面会交流が問題となると,両親それぞれに,裁判所で面会交流に関するビデオを見るように強く勧めますし,基本的に「面会交流はしなくてよい」などという結論は(暴力などの危険がない限り)決して出しません。
   

■ただ,子どもの「真意」や,真の意味での「利益」を把握するのはとても難しいことだと思います。 
こんなことを言うと,大きな反論が来るかもしれませんが,たとえ専門家と言えども,子どもの「真意」などというものは明確には分からないと思います。 
さらに,子どもの「真意」と,客観的な子どもの「利益」が必ず一致するわけではないことも,問題を難しくします。
正直,法がどこまで介入すべきなのか,介入してよいのか,悩むことも多いのです(それは裁判所も同じだと思います)。
   
  
■こんな風に説明すると,私の言いたいことが分かってもらえるでしょうか。
おもちゃ屋の前で,「あのおもちゃが欲しい」と言って泣き叫ぶ子ども。
この子の「真意」はおそらく「あのおもちゃが欲しい」ということに尽きるのでしょう。 
では,その「真意」のままにおもちゃを与え続けることが,客観的・長期的にみて,この子の「利益」になるでしょうか。
子どもの機嫌を取りたい側は,「これだけ欲しがっているのだから買ってあげよう」と言うかもしれませんし,我慢するという訓練がなされないままに成長することが,この子の「利益」にならないこと考えて,買い与えないという判断をする親もいるでしょう。
それぞれがそれぞれの思惑で異なった主張をしがちなのです。そして,必ずしもどちらかが正しいとは言えないのです。
   
  
■面会交流の際も同様ではないかと思うのです。 
「お母さんを苦しめたお父さんとは会いたくない」と子どもが言った時,その言葉を文字通り受け取って,お父さんに合わせないことが,本当にその子にとって「利益」になるのかどうか。
きちんと自分の父親と向かい合って,欠点も含めて受け止めたほうが,「客観的・長期的」には「利益」になるのではないか,と思うこともあるのです。
ただ,さらに問題を難しくするのは,子どもは,必ずしも,「真意」をそのまま言葉にしない(あるいは出来ない)ことです。
日頃,父親の悪口を言っている母親の手前,父親に会いたくても会いたいとは言えない場合もあります。
逆に,母親が「父親ときちんと向かい合うべき」という方針を持っており,その気持ちを敏感に察する子どもが,会いたくなくても「会いたくない」と言えないこともあります。
   
  
■正直に申し上げると,私自身,依頼者の皆さんとの僅かな打ち合わせなどでは,到底,子どもの「真意」も「利益」も十分には理解できないのです(それは裁判所であっても同様だと思います)。
ただ,このような紛争の中にいる子どもは,多くの場合,その年齢からして,驚くほど,そして悲しいほど,「おとな」です。
   
  
■このように,面会交流の事件について,単に法律家に過ぎない私が,「真の解決」をすることができないかもしれません。
いろいろな問題を提起して,皆さんと一緒に考え,悩むことしかできないと思います。
ただ,それでも何もしないより,一助になりうることを信じて皆さんの相談に乗っているつもりです。

2019年6月20日

◆離婚の相談があった場合の弁護士の対応について(弁護士小林徹也)


■当然のことですが,離婚の相談に来られる方の中には,それまでの婚姻生活がうまくいかなかったため,精神的にもまいり,どうすればよいのか分からないという方が多くおられます。
   
■もちろんそのような方には十分な配慮はしますが,弁護士は,精神科医ではありませんから,メンタルなケアを行うことはできません。
ただ,少なくとも,法律的に何が問題となっていて,何をどのように解決していけば,前進できるかについて,ひとつづつ整理してご説明することを心がけています。
   

■一般論として言えば,離婚の際には,離婚できるかどうか,に加えて,未成年のお子さんがおられる場合にはその親権,ある程度の財産がある場合にはその分配の方法(財産分与),また不貞などいずれかの責任によって婚姻生活がうまくいかなくなったのであれば,慰謝料が認められるかどうか,などが問題となり得ます。
   

■そのひとつひとつについて,個々の相談者の場合,何が問題となる可能性があるのか,それを解決するためには,まず何をしなければならないのか,その見通しはどうか,などを整理してご説明するように心かげています。 例えば,まず,なぜ今のような事情になったかについて,可能な限りメモを作成していただき,私がそれを整理し,法的に評価することで,相談者の頭の中で,婚姻生活の何が問題で,それが客観的にどのように捉えられるのかが少しづつまとまっていくのです。
そのうえで,一緒に,ひとつ一つ片付けていくのです。
細かいことですが,「まず戸籍謄本を取ってきてください」「通帳を持ってきてください」などと段取りを決めて動いていただきます。
   
■離婚という人生の一大事に直面した時,あたかも超えることができないような高い山のように見えるかもしれません。
しかし,前述のように,目の前の一つ一つの石の中から確実なものをひとつひとつ選んで,そこをつかんで踏み上がっていけば,大抵は,確実に超えていけるものです。
遠くを見ることは難しくても,すぐ先の足元を見ることはそんなに難しくないはずです。
まずは遠くを見ることを止めて,足元を見てください。思ったよりもしっかりしていますよ。

2019年6月12日

◆仕事を辞めたいな…と思ったら,弁護士に相談してください(弁護士佐久間ひろみ)


■職場がブラックだったり,苦手な上司がいたり,条件が悪かったり…様々な理由で今の会社を辞めたいと思うことがあると思います。
民法の規定によると,仕事を辞めるときは,労働者が「辞めたい」と会社に伝えさえすれば,2週間後に雇用契約を終わらせることができます。
もちろん,会社の同意は必要ありません。
   

■しかし,会社には怖い上司がいて,直接行ったら脅されるかもしれないし,怒鳴られたり殴られたりするかもしれないと思うと,自分で電話や手紙を書いて会社を辞めると伝えることは,簡単ではありません。
そこで最近流行っているのが,退職代行業者です。
   

■退職代行業者は,「退職成功率100%」「明日から会社に行かなくてもOK」といううたい文句で,会社を辞めたい本人に代わって,会社に対し退職する旨を伝えてくれます。
1件当たりの費用は3万~5万円程度。
会社と直接交渉をするストレスに比べたら安いもの…と思う方々のニーズに応える一方で,勝手に会社と交渉をするといった問題も抱えています。
   

■退職をしたいと考えている人は,未払いの賃金があったり,残業代が支払われていなかったり,退職金が発生していたり,会社と交渉を必要とする問題を抱えている場合があります。
しかし,代行業者は弁護士と違って,会社と交渉をすることはできません。
会社を辞めたいと思ったとき,自分の権利を十分に行使するためにも,弁護士に相談してみてはいかがでしょう。
当事務所は初回相談無料です。まずはお気軽にご相談ください。

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